拉致被害者救出の絶好のチャンスを生かしたい(3) 全被害者帰国が実現する最善のシナリオが見えてきた −西岡力−

拉致被害者救出の絶好のチャンスを生かしたい(3)

全被害者帰国が実現する最善のシナリオが見えてきた

 

 

西岡力
日本キリスト者オピニオンサイト − SALTY − 主筆

 4月19日の日米首脳の共同記者会見でトランプ大統領は、拉致被害者救出への熱意を以下のように明確に語った。私はそれを聞きながら胸が熱くなった。

「去年の秋、日本を訪問した際、愛する人たちを北朝鮮に拉致される痛ましい体験をした被害者の家族と会った。拉致被害者ができるだけ早く家族の元に戻れるようにしたい」

「この問題がシンゾウの心にある最も重要なことの1つだとわかっているし、われわれはこのことをよく話しあっている。拉致被害者を日本に連れ戻せるようわれわれはできることはすべてやる」

4月18日の本欄で私は、トランプ大統領が安倍首相に「米朝首脳会談で拉致問題を提起する」と話したことを評価しつつも、それだけではまた北朝鮮のウソにだまされる危険性があるとして、次のように今後の課題について書いた。

「しかし、米朝首脳会談で拉致問題を取り上げるだけでは不十分だ。トランプ大統領が、めぐみさんらが生きており祖国に帰る日を切望しているという事実を心に刻み、金正恩に拉致被害者全員の一括帰国を迫るかどうかが勝負の分かれ目だ。そのため、継続して働きかけなければならない。」

 私の心配は1日で霧散した。トランプ大統領が拉致問題解決などという曖昧な言葉を使わず、被害者帰国が目標だとして、「拉致被害者ができるだけ早く家族の元に戻れるようにしたい」拉致被害者を日本に連れ戻せるようわれわれはできることはすべてやる」と語ったからだ。

 安倍首相が全存在をかけて説得した成果だろう。また、CIA長官が秘密訪朝して金正恩と面会したことからも分かるように、金正恩は核ミサイル放棄問題で大胆な譲歩を提案しているのかも知れない。トランプ政権が求めているリビア型の非核化、すなわち
①情報機関による自由な査察、
②数カ月で核、ミサイル、化学兵器とその製造装置などを完全廃棄、
③見返りは完全廃棄実現後まで与えない、
を実行してもよいというところまで下りてくる可能性があるのかもしれない。もしそうであれば、トランプ大統領は③の段階で与える見返りとして、米国は経済的負担をしないで、日朝国交正常化に伴う経済協力資金を取引材料に使おうと考えていると思われる。その場合、安倍総理が、核ミサイル問題が完全に解決しても、すべての拉致被害者が返ってこない限り、日本は国交正常化に応じず、したがってカネも出さないという断固たる姿勢を示しているので、金正恩に対して核ミサイル廃棄と被害者帰国を両方迫り、自国の財布がいたまない取引を考えている。

 4月27日に南北首脳会談が予定されているが、それも前座のようなものだ。すべては、5月下旬から6月はじめに持たれるというトランプ・金正恩会談で、金正恩がどこまで譲歩してくるかだ。これまでのような口先だけの核ミサイル放棄約束では、会談は決裂するだろう。そうなれば、にわかに軍事緊張が高まる。朝鮮半島で戦火が上がる危険性が浮上する。息をのむ気持ちで、最善の展開を祈っている。