日本人に適応させるために −久保田Ukon 典彦−

『キリシタン史からのメッセージ』
高槻・Ukon:第7回

 

 

 

 

久保田Ukon 典彦
阿武山福音自由教会 教会員
「髙山右近研究室・久保田」主宰

日本人に適応させるために

 ポルトガル・コインブラ学院の神学教授だったジョルジェが数人の神父たちと共に、「ドチリナ・Doctrina」を作成し、それが、1566年にリスボンで出版されました。

好評で、各地で用いられ、日本にも、1570年頃伝えられました。

 原書はポルトガル語ですので、1591年に加津佐でキリシタン版の「どちりいなきりしたん」が発刊されるまでの21年間は、宣教師達によって、ジョルジェの「ドチリナ」を各地での宣教の中で、日本文に翻訳しながら・絶えず訳の検討や訂正を繰り返しながら・写本されながら、用いられていったようです。

そして、よく検討・吟味が繰り返された結果、日本語訳の決定版として発行されたのが、1591年版の「どちりいなきりしたん」でした。


日本の実情を考慮して、日本に適応させるために

 キリシタン版の日本語訳「どちりいなきりしたん」とジョルジェの「ドチリナ」を比べてみますと、ジョルジェの書をそのまま翻訳・出版したのではなく、日本の実情を考慮して、日本に適応させるために、本文の順序や配置を変えたり、必要な補足を加えたりしながら、編集を行なったことがわかります。

 原書では、教師が質問し、それに子どもが答える形で、子ども達の理解度を確かめる形のものでしたが、日本語版では、逆にして、弟子が質問し、それに師が答えて、正しく教えていく形に変えています。

 日本の実情に合わせて、内容を工夫しています。

弟子 この掟(姦淫してはならぬこと)を守るための心得はなんですか。

 たくさんある中でも、飽きるほど飲食しないこと。悪い友人と交際しないこと。恋の和歌や恋の草紙を読まず、恋の歌謡を歌わず、出来ることなら、聞かないがよい。

弟子 洗礼は誰が授けるのですか。

 本式には、洗礼を授けるのは司祭の役目である。しかしながら、司祭の居ない所では、男女によらず、この秘跡を授けることを許されているので、誰でも授けることが出来るのである。きりしたんは誰でも、ぜひ洗礼を授ける方法を習っておくべきである。

 当時の大きな関心事だった結婚・離婚についても、具体的にくわしく教えています。

弟子 一度結婚した後では、男女ともに、離婚し・あるいは別の人と交わることは決して出来ない、というのは、余りに厳しいお定めです。なぜなら、互いに気の合わないことがあった場合でも、離れることは出来ないという考えだからです。

 (くわしく、ていねいに答えていっていますが、是非、ご自分でお読みになってみてください。)

(「現代語訳ドチリイナ・キリシタン」宮脇白夜・訳、聖母文庫)

 それまで、日本語訳にしていた宗教用語は、どうしても、仏教語になっていましたので、誤解が生まれそうな言葉は、あえて日本語にしないで、原語のままにしています。

でうす(神)・おらしよ(祈り)・がらさ(恩寵)・てんたさん(誘惑)・ぱらいぞ(天国)・いんへるの(地獄)・ぽろしも(隣人)・・・・・ など、かなりの数になっています。

“天使” も日本人には誤解を与えそうですので、原語のままの 「あんじょ」(英語のエンゼル)にしているのに、

元天使であって、主なる神に反逆した(サタン・悪魔) については、 「天狗」と訳しているのです。でも、これでは、誤った理解を与えてしまいそうです。

原語のままの方が、よかったのではないでしょうか?

※ [ 参考図書] 「現代語訳ドチリイナ・キリシタン」(宮脇白夜・訳、聖母文庫)

 

久保田Ukon 典彦
阿武山福音自由教会 教会員

「髙山右近研究室・久保田」主宰
・ホームページ: [髙山右近研究室・久保田へようこそ]
・ブログ: [髙山右近研究室のブログ]

「髙山右近研究」をライフワークにしています。
髙山右近やキリシタン達を通して、いっしょに考えていければと思います。