干しいちじく、そして 織田信長と干し柿 −久保田 Ukon 典彦−

『キリシタン史からのメッセージ』
高槻・Ukon:第9回

 

 

 

 

久保田Ukon 典彦
阿武山福音自由教会 教会員
「髙山右近研究室・久保田」主宰

干しいちじく、そして 織田信長と干し柿

● 妻から、 「 こんなのが売ってあったので、買っておいたよ。」
━━ と言って、差し出されたものを見て ビックリ !
【 ドライいちじく 】  DRIED FIG
ポルトガル産ではなく、トルコ産の [ ドライいちじく ] でした。

● [ 新約聖書 ] の 「 マタイの福音書 」 と 「 マルコの福音書 」 に “ いちじくの木 ” が出てきます。
イエス ・ キリストが、弟子たちに対して、実を結んでいない “ いちじくの木 ” ( ユダヤの宗教指導者たちの姿 ) のことを、実物教育する材料として 用いられ、その木に向かって、「 おまえの実は、もういつまでも、ならないように。」
と言われ、たちまち、いちじくの木は 枯れてしまったのでした。

● さて、この “ いちじくの木 ” を、キリシタン時代の宣教師たちは、聖書の翻訳の時に、どのように 日本語に訳していったのでしょうか。

“ いちじくの木 ” は、江戸時代になって 初めて日本に伝わりましたので、当時の日本には、まだなかったのです。

 このような時は、原語を使用するしかありませんので、「 フィゲイラ 」 ( いちじく ・ 無花果 ) として、ポルトガル語で そのまま訳していったのでしょうか。

 実は、そうではなくて、出来るだけ 日本の風土に合わせて、わかりやすくするために、「 柿の木 」 と訳したのでした。

  いちじくの木  柿の木 ???

 余計に 混乱 ・ 誤解されそうですが、どうしてなのでしょうか。

● 「 その木 ( 柿の木 ) が、幹でも葉でも、、わがヨーロッパの いちじく に似ているから というのではなく、その果実が、乾燥した後、わが “ 干しいちじく ” に すこぶる類似しているからである。」  ( セルケイラ 日本司教の書簡、1612年 )

ヨーロッパにはない、日本の 柿の実の “ 干し柿 ”
日本にはない、ヨーロッパの いちじくの実の “ 干しいちじく ”
これら二つのものが、よく似ていましたので、苦心の末の 名訳 となったのでした。

● “ 干し柿 ” と言えば、思い出すのが 織田信長。

 ルイス ・ フロイスが記した 「 日本史 」 では、

※ フロイスに対して ( 「 日本史 2 」 P. 154 )
“ 美濃の干した無花果 ( いちじく ) ”

 都での、キリスト教の宣教に対する 允許状 ( いんきょじょう ・ 許可状 ) を与えた 織田信長に、御礼の訪問をした時、「 彼は司祭を自室に入らせ、自ら飲んでいた同じ茶碗から 二度茶を飲ませ、日本できわめて珍重される 美濃の干したフイゴ ( 無花果 ) が入った四角い箱を与えた。」

※ 巡察師 ヴァリニャーノ に対して ( 「 日本史 3 」 P. 115 )
“ まるで 干し無花果に似た果物 ”

 巡察師ヴァリニャーノが 安土城を訪れた時、 「 巡察師が 安土山に到着すると、信長は、彼に城を見せたいと言って召喚するように命じ、修道院にいる すべての司祭 ・ 修道士 ・ 同宿たちにも接したいから、一緒に来るように命じた。

 彼らが着くと、下にも置かぬように歓待し、城と宮殿を、初めは外から、次いで内部からも見せ、どこを通り 何を先に見せたらよいか 案内するための 多くの使者を寄こし、信長自らも三度にわたって姿を見せ、司祭と会談し、種々質問を行い、彼らが 城の見事な出来栄えを賞賛するのを聞いて、極度に満足の意を示した。

 信長は、美濃の国から送られて来た、その種のものでは日本で最良の、まるで 干し無花果に似た果物が入った箱を彼らに差し出し、自らそれを司祭に渡し、他日 もう一度 彼を招待したい、と言って別れを告げた。」

● 「 柿 」 は、東アジア固有種ですので、フロイスは それまで、「 柿 」「 干し柿 」 も見たことがありませんでした。

 信長が もてなしてくれた時は、ポルトガルの 「 干し無花果 」 に似ていますので、てっきり そうだと思ってしまいました。

● 「 干し柿の里 」 は、各地にありますが、美濃の干し柿は有名です。
信長のもとにも、多くの干し柿が届けられ、信長にとっても好物であり、こんなにおいしいもので もてなすことを、喜びとしていたようです。

※ [ 参考図書 ]  「 完訳フロイス 日本史 」〈2〉
信長とフロイス―織田信長篇 (2)  
( 中公文庫 )

 

 

 

 

久保田 Ukon 典彦

阿武山福音自由教会 教会員
「髙山右近研究室・久保田」主宰
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「髙山右近研究」をライフワークにしています。
髙山右近やキリシタン達を通して、いっしょに考えていければと思います。