「韓国の反日は差別主義」と韓国保守派が自己批判 – 西岡 力 –

 

 

西岡 力
 「救う会」:北朝鮮に拉致された日本人を救出する全国協議会 会長
日本キリスト者オピニオンサイト -SALTY- 主筆

「韓国の反日は差別主義」と韓国保守派が自己批判

◎韓国の反日は日本の統治が理由ではない

 私は今の韓国の「反日」は日本統治時代の体験から来るものではなく、北朝鮮と韓国親北左派によって1980年代以降に作り出されたものが大部分だと考えている。その分かりやすい証拠は、日本統治時代を経験した年長世代より、80年代以降、左傾化した学校教育に接した若い世代の方が「反日感情」が強いことだ。最近の海上自衛艦の旭日旗への反発も、ここ10年くらいの間に起こったものだ。2008年には海上自衛艦は旭日旗を掲げて韓国に入っている。


◎「反韓史観」の拡散

その背景を理解する鍵は、1980年代以降、韓国で急速に拡散した「反韓史観」がある。

それを要約すると以下のようになる。

〈韓国は生まれた時から汚れた存在だった。韓国の建国大統領の李承晩は独立運動家だったとされているが、彼は米国で外交活動ばかりやっていて銃一発も撃っていないみせかけの独立運動家だ。その李承晩は独立後、大統領になって日本の植民地支配に協力した民族の裏切り者である「親日派」の処断を曖昧にして、むしろ官僚、軍人、警察などの政権幹部として「親日派」を登用した。親日派を処断するために設置された「反民族行為特別調査委員会(反民特委)」も李政権の圧力で満足な活動が出来なかった。

 軍事クーデターで政権に就いた朴正熙は、日本の傀儡だった満州国の士官学校を出て日本の陸軍士官学校に進み、満州国軍軍人となった代表的「親日派」だ。朴正熙が戒厳令を敷いて強行した日韓国交正常化では慰安婦や徴用工などの過去清算がきちんとなされなかった。それは朴正熙が「親日派」だからだ。

すなわち日本の支配に協力した「親日派」は解放後も、「親米派」「反共派」「経済開発勢力」に変身して社会の中心に居座り甘い汁を飲み続けてきた。〉


◎「反韓史観」は親北史観

 ここまでが、韓国で公開的に論じられている内容だ。そして、その延長線上で北朝鮮については以下のような認識が広がっていった。この部分は一部過激な主体思想派と呼ばれる親北勢力などでは公然と語られているが、大多数の韓国人は内心の思いとして共有している。

〈一方、北朝鮮の金日成は満州で武装抗日闘争を行ない、解放後、北朝鮮では「親日派」は徹底的に処断された。財産没収も行われた。その後もソ連や中国に対しても自主を貫き、外国軍隊の駐屯を許していない。米国帝国主義の圧殺政策のため経済面では遅れている部分があるかもしれないが、民族主義の観点からすると正統性は北朝鮮にある。〉


◎文在寅大統領も反韓史観の信奉者

 文在寅大統領の内心にも確実にこの歴史観が存在する。文在寅大統領は昨年初め大統領選挙のために出した本(『大韓民国が尋ねる、文在寅が答える』)の中で、自分が政権をとったら親日派を清算し、韓国の主流勢力を交代させるとして、次のように語っている。

〈光復[日本統治からの解放を意味する・西岡 (追補)]以後、親日清算がきちんとできなかったことが今まで続いています。親日派は独裁と官治経済、政経癒着に引き継がれたので親日清算、歴史交代が必ずなければなりません。歴史を失えばその根を失うことと違うことはありません。必ずしなければならない歴史的運命です〉

〈一番強く言いたいことは、わが国の政治の主流勢力を交代させなければならないという歴史の当為性だ。そのように語りたいのだが、それは国民が心情的にもっとも望んでいるとしても少し嫌がる部分でしょう。だから、大清算、大改造、世代交代、歴史交代、そのよう表現を使っています。既存のわが国の政治主流勢力が作ってきた旧体制、古い体制、古い秩序、古い政治文化、このようなものに対する大清算、そしてその後に新しい民主体制への交代が必要だと考えます。〉


◎2018年8月15日演説の中の反韓史観

 大統領就任後もその歴史観には変化がない。「積弊清算」の名の下に行われている保守派たたきは、文在寅大統領からすると「親日派」清算作業の一環なのだ。そのことは今年(2018)8月15日の文在寅大統領演説でもはっきり表れていた。演説の中で文大統領は「光復」は外から与えられたものではなく韓国人が闘い勝ち取った結果だと語った。ここでいいう「光復」とは、光が再び戻ってくるという意味から日本からの解放を意味する。

〈旧韓末の義兵運動から始まった私たちの独立運動は、三・一運動(さんいちうんどう)を経て国民の主権を求める熾烈な抗戦となりました。
大韓民国臨時政府を中心に私たちの国を私たちの力で建設しようという不屈の闘争を繰り広げました。

親日の歴史は決して私たちの歴史の主流ではありませんでした。
わが国民の独立運動は世界のどの国よりも熾烈でした。
光復は決して外から与えられたものではありません。
先烈たちが死を恐れず共に闘い勝ち取った結果でした。
すべての国民が等しく力を合わせ成し遂げた光復でした。

そうして光復のその日、私たちは、
皆が一緒に大きな声で万歳を叫びました。
私たちはその事実に強い自尊心を持っても良いでしょう。〉

 「光復は決して外から与えられたものではありません。先烈たちが死を恐れず共に闘い勝ち取った結果でした。すべての国民が等しく力を合わせ成し遂げた光復でした」という部分について、日韓の何人かの論者が、韓国の独立は連合国の勝利によるものであって、韓国の独立運動がそこに寄与した部分は小さいという歴史的事実を踏まえていないと、批判している。またなぜ、文大統領がこう主張するのかについては、日本と実際に戦って勝利した経験がないから観念の世界で自己満足しているという分析がなされている。

 しかし、私はこの表現の直前におかれた「親日の歴史は決して私たちの歴史の主流ではありませんでした。」という文に注目し、前掲の「反韓史観」の影響をここに見る。

 韓国人の大部分が日本の支配に熾烈(しれつ)に抵抗し、その闘いによって解放を勝ち取ったとする裏には、当時、日本に協力した「親日派は歴史の主流ではない」と断言せざるを得ないのだ。そして、この「親日派は歴史の主流ではない」という概念は、解放後の歴史で「親日派」が主流勢力として生き残ってしまったから、いまからその勢力をパージしなければならないという「反韓史観」につながるのだ。


◎朴槿恵政権の反日は反韓史観と戦わなかったため

 「反韓史観」が跋扈している韓国では日本を擁護したり、韓国の反日論の間違いを指摘することはもちろん、日本について客観的に論じることも一種のタブーとなっている。

 大統領就任以前は露骨な反日感情を表に表すことがなかった朴槿恵前大統領が就任直後から3年間、激しい反日政策をとった背景も「反韓史観」と関係がある。すなわち、同史観の一番のターゲットに父である朴正熙元大統領が挙げられ、自身も「親日派の娘」という誹謗を受けている中、反韓史観にきちんと反論して父の名誉を守ることをせず、逆にそれに迎合してしまったのだ。そこに彼女の弱さがあった。


◎韓国の反日は差別主義という保守の声①、趙甲済氏

 ところが、文政権が「反韓史観」を基礎とする保守派パージをいよいよ強引に進める中、「韓国の反日は差別主義である、それを是正しないと韓国の未来はない」という正論を主張する保守リーダーが出てきた。彼らの共通項は韓国の反日を「レイシズム」であるとしている点だ。

 まず、韓国保守言論人を代表する趙甲済(チョ・ガプチェ)氏は、北朝鮮の独裁政権とそれを支持する韓国内の金日成主義者の両者の理念について、人類歴史上最悪の「階級的人種主義(レイシズム)」だと批判し、その中で南北両方の反日をも人種主義だと断定している。

〈民族、民主を看板として掲げた韓国の自称進歩勢力、すなわち左派は、民族共倒れの核兵器と北朝鮮同胞人権弾圧という北朝鮮金日成勢力の反民族–反民主的犯罪行為に目をとじる。

その一方で米国と日本のそれより小さい犯罪に対しは糾弾してはばからない。 作戦中の米軍装甲車が女子中学生をひき殺した事件と日本の従軍慰安婦問題に対する執拗な攻撃がその例だ。

こういう両面性はどこからくるのか。彼らが話す民族主義は人種主義であるいう証拠だ。同族は無条件でかばって、他民族(特に米国と日本人)は無条件で攻撃する姿勢は排他的民族主義、すなわち人種主義だ。(略)

人種主義と階級闘争論は歴史を後退させるという事実が明らかになり、それらは廃棄されてごみ箱に入れられた。ナチの人種主義、スターリンの階級闘争論だ。 ごみ箱に投げ捨ててしまわなければならない二つの悪魔的理念を結合させたのが金日成の階級的人種主義であり、韓国の自称進歩勢力もこれに似ている。 だからこれらこそ歴史の守旧反動勢力である。[傍線:西岡・以下同]〉
(「人類歴史上最悪の理念は南北韓左翼の『階級的人種主義』」趙甲済ドットコム  2018年9月1日)


◎韓国の反日は差別主義という保守の声②

 趙甲済氏が主宰するネットニュースではより明快に反日人種主義を批判する論考もアップされている。

〈特定国を狙った韓国の人種主義が病的様相を帯びている。 「反日感情」、「民族感情」、「国民感情」などもっともらしい表現で包装だけした今日の韓国の日本対する態度は、世界で類例を探してみるのが難しい程に、非常に悪意のある人種主義にほかならない。 韓国人自らだけが、これに対する自覚がないだけだ。 自覚がないからますます症状は激しくなる。 韓国の対日人種主義が病的段階に来ていることを見せる証拠はとても多い。(略)

韓国人は普段、韓国自身はもちろん地球上どこの国も決して達成できない最高水準の道徳性の完ぺきさを唯一日本にだけ強要する傾向がある。そして、日本がこの基準(誰も到達できない最高の道徳性)に至らなければ韓国は日本に向かって毒舌を浴びせて憎悪する(偽善的)場合が少なくない。これは、反日感情、民族感情、国民感情次元の問題でなく、事実上人種主義(人種差別主義)の問題に該当する。

今日韓国が見せるこのような時代錯誤的であり前近代的な「対日人種主義」こそ積弊の中の積弊に該当するだろう。韓国人のこのような病的反日が持続する限り、韓国人は永遠すに「井の中のかわず」の境遇であり、永遠に前近代的「人種主義者」として生きていくほかはない。〉
(ボンドビルド「病的段階に到達した韓国の『対日人種主義』」同前2018年6月30日)


◎韓国の反日は差別主義という保守の声③、李栄薫教授

 そして、韓国の近代経済史学界の泰斗(たいと)である李栄薫(イ・ヨンフン)・前ソウル大学教授もこの論陣に加わっている。

 李教授は2018年8月15日付けの在日韓国人発行の週刊新聞『統一日報』での「反日種族主義を克服せよ」と題する長文のインタビューで主として経済的側面から次のように主張した。(なお、ここで使われている「種族主義」はレイシズムと必ずしも重なるとは言えないが、同じ方向を向いている概念だと筆者は理解している。)

〈今日の韓国を築き上げた最も重要な出来事は、韓日国交正常化とそれに続く輸出主導の工業化政策だったと思います。それ以前は、輸出を通じて国家経済を建設するというそんな発想はありませんでしたからね。輸出が重要だとは認識していたし、ドルが不足しているから、輸出を通じてドルを稼ごうという考えは、自由党政府の時からありました。輸出計画も作りました。65年、「輸出立国」をスローガンに掲げ、輸出そのものを動力として国家経済を建設する方針が打ち出されたのです。それまで、後進国が輸出を通じて経済を建設するという考えは、他の国にも前例がありませんでした。(略)

 輸出を通じて国家経済を建設することが可能になった理由は、日本との国交正常化を通して高級素材や中間財、それに技術が入ってきたためです。日本からそれらを導入したので、国際市場で売れるものを生産できたのです。つまり、日本との協力関係を通してのみ輸出主導の工業化が可能だったということです。韓日国交正常化を通じて輸出主導の工業化が可能になり、市場環境と国際環境が創出されました。それが80代まで続きます。

韓国を取り巻く国際環境を積極的に友好的なものに変え、それを活用しながら輸出主導型へと国家経済を高度化させていった、それが韓国人の創造的な国家革新体制です。これは今日の韓国を築いた最も重要な原理です。(略)

 このような状況なのに、日本との協力関係を意図的に中断し、葛藤を増幅させる政策をとる、こういう精神状態が最大の問題です。建国70年を迎えて、そういう点を、われわれは一日も早く克服すべきで、それが当面の最も重要な課題だと思います。(略)韓国の民族主義はまともな民族主義ではありません。反日種族主義です。〉

〈韓国の民族主義は、健全な意味で国民を一つに統合し共和主義と民主主義を成熟させるような民族主義ではなく、本質的に反日種族主義と言えます。大きな国、米国や中国に対しては非常に従属的で、依然として事大主義的です。

これが韓国の政治、社会、文化、経済のくびを締めている核心的な部分だと思います。これを突破、打破しなければ、韓国は再び歴史の舞台から周辺部へ落ちると思います。

今の従北主義とか、あらゆる問題の原因が反日種族主義にあり、この反日種族主義をいまだ打破できずにいるのが、建国70年を暗くする最も重要な要因だと私は考えています。〉

 実は李教授はすでに1年前の2017年8月22日号に韓国の保守週刊誌「未来韓国」(ネット版)とのインタビューで歴史認識面での反日種族主義を「種族的民族主義」という言い方で取り上げていた。

〈韓国民族主義の種族的特質は端的に言って、反日敵対感情と仇敵意識に基づいています。中国に対してはそういう意識がなかったり、あるいはとても弱いです。多分に偏向した国際感覚です。その点をより露骨に表現すれば前近代的な部族主義とも言うことができます。 韓国民族主義の部族主義的特質は近代ないしは近代的個人の欠如と密接に関係しています。

私は韓国の反日部族主義が時間が過ぎれば解消していくだろうと楽観していました。ところでこれまで30年間の歴史を振り返ってみればそうではないようです。反日部族主義はますます強化される傾向です。新しい部族主義的象徴を絶えず開発して日本との緊張関係を深化させています。

日本との関係正常化は最初から不可能でもあり、不必要でもあるという立場のようです。日本の歴史と現実に対する客観的理解が否定されています。一方的な怒りと罵倒、批判がほとんど全部です。慰安婦問題において良い例を探すことができるんですが、私が知る限りその問題に科学的に接近した国内の研究者は一人もいないと言ってもよい実情です。およそ二人の研究者がいるが、日本側研究をひっくり返して解釈したり文芸批評の水準に留まっています。

慰安婦問題に関する限り韓国の政治と一般国民の意識はますます強硬一辺倒に流れています。日本政府が2回ほど謝ったが、聞いた素振りもしなくなっています。
私は韓国人のますます強くなる反日部族主義、それが土台にする歴史意識、現実認識、国際感覚をこのまま放置すれば、この国は再び亡国の危機に陥ると考えています。

 

 以上見たような冷静な日本観が韓国社会でどれほど広まるのか、言い換えると「反韓史観」がいつまで気勢をふるうのかに、韓国が文明国として生き残れるか、全体主義国に転落するかを分ける鍵がある。