現在の「福音派」の一部の言動と行動は、本当の「平和主義」の探求なのか? −井草晋一− 

SALTY <再・論説>

 

 

井草晋一SALTY 編集長
・ピヨ バイブル ミニストリーズ 代表
・Piyo ePub Communications 代表
・近放伝 IT伝道委員会・委員長

『現在の「福音派」の一部の言動と行動は、本当の「平和主義」の探求なのか?』(2016年8月17日)

 2年前の 2016年 8/17 付で facebook に記した私のコメントですが、現在も同様の状況であると感じています。

その時の facebook記事に幾つかの書籍の紹介も加えて、ブログに掲載しております。この度、あらためて「SALTY」の記事として<「再録・再掲載」>のコーナーで掲載いたします。

<最近の社会的動向>
・2015年9月17日 「平和安全法制関連2法」参議院本会議にて成立
・2017年6月15日 「改正組織犯罪処罰法」参議院本会議にて成立

なお、電子書籍(ePub):『平和の全人的理解に向けて』 ドルトン・ライマー著(注*1) は、私のブログから無料でダウンロードできます。(PDFファイルも)
< Windows PC の WEBブラウザ:Google Chrome の Readum でも読めます。>

現在の「福音派」の一部の言動と行動は、本当の「平和主義」の探求なのか?(2016年8月17日)

社会問題に関する キリスト者の facebook グループがあり、時々コメントや見解を投稿しています。

 どのような facebook グループでも、グループの趣旨や積極的に議論に参加されている方々を中心に、どうしても一つの見解に集約されていく傾向がある点は、避けられないかもしれません。

 と同時に、すでに議論されたのと同じような問いかけや問題提起がそれらのグループ内でなされることも、別な視点から再考察できる良い機会かと思います。

 上記のタイトル「現在の「福音派」の一部の言動と行動は、本当の「平和主義」の探求なのか?」について、最近感じていることや見解を述べさせていただきます。

 私は、歴史的平和教会(注*2)の中のメノナイト派(日本メノナイトブレザレン教団)に属し、いわゆる、「絶対平和主義(政治的見解ではなく)」・「無抵抗主義=ノンレジスタンス」の信仰を受け継ぐ者です。

 20世紀に入るまで、プロテスタントの正統派からは「急進的宗教改革者」として白眼視されていましたが、20世紀に入って欧米での「再洗礼派」の再評価や、出村彰先生の『再洗礼派』の著書に代表されるように、日本基督教団の研究者によっても注目されるようになりました。

 福音派内部でも近年、「政教分離」「平和主義」「絶対平和主義」「平和づくり」「ピースメイキング」などの言葉が意図的(時に、恣意的に)、また、積極的に用いられています。

 そのような中で、私自身は、最近のキリスト教会(福音派)の一部の方々の言動や行動に問題点を感じている一人です。


近年の「平和」の理解と行動の問題点

 争いの渦中にあって「キリストの弟子」であるゆえの信仰的葛藤と模索、また、「平和的解決」を目指した取り組みの多様性や自らの身の危険性をも顧みずに「紛争解決」に取り組むという、「キリストの教え」、「山上の垂訓」の実践という「平和の探求」ではないように感じるからです。

 どちらかというと、政治的影響や日本のキリスト教会の戦前・戦中の「国家的動向に対する迎合と敗北」を相殺(そうさい)したいという、日本人キリスト者の思いから出てくるところの行動が見受けられます。国会や政府・行政(及び、その管轄施設)に対するデモなどの行動や各種の反対声明、そして、「平和主義」「絶対平和主義」が聖書の理想だとして、それを「錦の御旗」に掲げるという、主客が転倒したアプローチなどです。

 遣わされたところ(職場、地域、社会組織、地方や中央官庁、そして各共同体など)で「世の光」「地の塩」として、一人一人が少しでも、「平和をつくりだす」働きかけをすることを抜きにしては、キリスト者としての「平和の取り組み」はありえないのではないかと考えます。


二十世紀後半(70年代以降)の一(いち)キリストス者としての平和理解

 信仰を持ちたての青年時代(70年安保直後)、会社員の時代、牧師としての前半(15〜20年)は、次のように考えていました。

 「日の丸・君が代は、法的根拠がない(国旗国歌法の制定の前)」、「自衛隊は、憲法解釈上、違憲である」、「キリスト者としてはどちらかというと社会党や民社党を支持すべきではないか」、「少数者の信教の自由は、最大限に重要視すべき」、「日本は朝鮮併合以来、朝鮮の民衆に「悪」をなしてきた」、「原爆投下は、終戦を早めるため(だったかもしれない)」、「太平洋戦争は、日本のアジア諸国への侵略だった」、「国策(のみ)によって、戦前のキリスト教会は、日本基督教団に統合された」、「日本の信託統治した太平洋諸国や併合した朝鮮、台湾にたいして、良くない政治、支配をしていた(らしい)」、などなど。


二十一世紀に入ってからの「平和理解の変遷」の証し

<歴史的、信仰的、及び社会的>

 けれども、「国際貢献」を志望する長男の陸上自衛隊への入隊希望に直面する中で、歴史的事実を左右両面から直視し、もう一度、自らの信仰のあり方を再吟味せざるを得ないという事態に直面しました。(2003年 秋)
(当時、所属団体の議長としての役職でもありました。)

・・・すると、上述したような「平和理解」ではない視点、視座が次々と見えてきたのです。

このような経験を通して、現在は、自らの信仰の系譜(平和的再洗礼派:メノナイト派)を感謝しつつ受けとめ、「キリストの弟子であること」から見つめ直しています。

・・・・・
「見解」の異なるキリスト者の考えとあり方も相互に尊重しつつ、「考え方」を再吟味するための「アドバイスや情報提供」は大切だと考えています。
他者の考えを否定しても、その方の見解を変えることはできませんし、お互い、誰かに「示唆された」歴史的事実や見解によって、自ら自身で再吟味して、その価値観や見解を修正してきたのではないでしょうか?
・・・・・

 混沌とした国際情勢と近隣諸国(中国、北朝鮮、及び韓国、ロシアなど)との関係を考える時、平和憲法の理念と精神をしっかりと受け止めた上で、自衛隊の憲法での明記は最低限必要であると考えます。

 2005年9月には、「防衛関係キリスト者の集い」(コルネリオ会)(注*3)の会長、石川信隆さん(防衛大学名誉教授)から、教職顧問(関西地区)担当の要請を受けました。現在、微力ではありますが、このような働きを担当させていただける幸いを感謝し、ご奉仕させていただいております。

 剣を委ねられたキリスト者としての領域から、剣をまったく退けたキリスト者の領域に至るまでの、連携と連帯による「平和づくり」が、今こそ必要ではないかと思わされています。

(了)

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<● 参考資料・他>

(注*1)
歴史的平和教会 —– キリストの語られた如くに宣誓と戦争に反対し、平和に生きることを生活の中で実践してきた、ブレザレン派、メノナイト派(再洗礼派)、フレンド派(クエーカー)の三つの教会を示す。

・「世界キリスト教史物語」 R.H.ベイントン 著

 

(注*2)
フレズノパシフィック大学のドルトン・ライマー先生の論文「平和の全人的理解に向けて」は、21世紀に至る「平和(シャローム)」のキリスト教史、ならびに聖書的根拠とその実践についての理解を深める上で、良い参考になるかと思います。


私の「キリスト教の電子書籍」のサイトから
ePub、PDFファイルをダウンロードできます。
PDFファイルは、同サイトの左上、「表紙」をクリックしてください。)

<キリスト教の電子書籍>

 

(注*3)
 防衛関係キリスト者の会(コルネリオ会)

*コルネリオ会(会長:石川信隆  防衛大学名誉教授)の皆さんとは、12年前(2003年11月)からの出会いと交わりです。

阪神淡路大震災、PKOでの働き、東日本大震災などでの自衛隊での活動以降、広く国民の理解と共感を得ていた自衛隊ですが、昨年(2015年)の安保関連法案の審議・採決の前後で、ある教会や牧師の言動によって、非常に悲しい思いをされたキリスト者自衛官の方々(OB、他)の声も伺いました。

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<<写真の著書の紹介>>

『キリストによる無抵抗主義』  J.A.テーブス著

発 行: 1957年2月8日
発行者:在日メノナイト・セントラル・コミチー
大阪府池田市尊鉢町五九
日本メノナイト・ブレザレンミッション
印刷者:いのちのことば社印刷部

*この本は、1980年4月に「福音聖書神学校」に入学した後、2年か3年の時の授業「神学特講」のテキストで、 ハリー・フリーゼン校長(Dr. /ダラス神学校卒)から教えを受けました。
後に、有田優牧師から受け継いだ『MB歴史』(メノナイトブレザレン教会の歴史)の授業を私(井草)が担当することとなり、副読本(サブ・テキスト)として用いました。

 

『平和つくりの道』  ロナルド・サイダー 著
棚瀬多喜雄 編訳   棚瀬恵里哉 共訳
発行日:2004年 4月20日
発 行:いのちのことば社


*この本は、CPT:キリスト者平和つくりチーム(Christian Peacemaker Teams)の設立のきっかけとなったメッセージを語った、ロナルド・サイダー先生ご自身の著書です。

 

 


■ CPT:キリスト者平和つくりチーム
 (紹介と解説 — 2006年 記載)
 「キリスト者平和作りチーム」(Christian Peacemaker Teams)とは、1984年のストラスブール(フランス)で開催されたMWC(メノナイト世界会議)の会議での、ロナルド・サイダー師の呼びかけに答えて1988年にメノナイト/アナバプティスト/平和主義の諸教会の協力によって創設された「平和をつくりだす」ための働きを進めている団体です。

現在(2006年 3月 時点)、中米、パレスチナ、イラクなどの紛争地域で、非暴力の活動をしています。

 メンバーは、東部メノナイト大学の「 “Conflict studies in EMU’s Center for Justice and Peacemaking” (正義と平和構築)」の講座をはじめ、メノナイト関係の大学などで、「 “VORP” (被害者・加害者の和解プログラム)」などの学びや訓練を受け、まさに、いのちをかけて、争い合うグループの中に割って入り、和解と「平和を作り出す」ために働いています。

CPT「キリスト者平和つくりチーム」の設立の経緯
https://peterpooh.blog.so-net.ne.jp/2006-03-27

● “The Origins of CPT”
https://cpt.org/about/history/origins