天皇譲位の年に際して − 亀井俊博 −

写真:『天皇陛下御在位三十年記念式典』
開催日:平成31年2月1日(首相官邸 ホームページより

・亀井俊博牧師による「社会問題」に関する時事評論です。
「西宮ブログ」の『バイブルソムリエ』に掲載された小論ですが、この度、著者の了承を得ましたので、「SALTY」に転載いたします。

「天皇譲位の年に際して

2019・1・23

 

 

バイブル・ソムリエ:亀井俊博

「西宮北口聖書集会」牧師
「芦屋福音教会」名誉牧師

 

天皇譲位に際して

 今年の日本の大きなイベントは、4月30日の天皇譲位、10月1日の消費税増税だと言われます。ただ消費税は大きな経済変動があればどうなるか分からないそうです。ここでは確定した天皇譲位について考えます。2016年8月8日、天皇から国民への異例のメッセージに端を発した生前譲位が実現します。そこで天皇制について考える機会となります。アリストテレス「政治学」によると政治体制には、王制、貴族制、共和制、僭主制、寡頭制、民主制の6種類があります。日本は王制と民主制を組み合わせた立憲民主制の下での天皇制です。天皇制も王制の一種と考えれば、世界の歴史的傾向では王制はすたる傾向です。わずかに残った世界の王制国家も、国民の支持なくしては存続出来ないので、王室はそれぞれ苦心しています。日本も同様です。

 天皇制については、右から左まで様々な考えがあります。ソムリエは以前、礼拝説教で天皇制について少し触れたとき、後で若い求道者がやってきて、“先生今度天皇について話したら、只ではおかないぞ”、と凄まれました。彼は、天皇崇拝の極右思想の持主でした。また半世紀前、ソムリエが学んだ田畑忍教授の憲法学セミで、天皇制をテーマに議論した時、教授はラデイカルな非武装永世中立論者でしたが、明治生まれの頑固な天皇制支持論者で、セミ生の中に天皇制否定論者で共和制を主張する者があり、大議論になった思いでがあります。さらに極左アナキストまでいましたね。思想は自由です。

 ソムリエの立場は、現憲法の象徴天皇制を支持すると言う事です。最近のポピュリズム横行で、社会の分断対立が深まる民主主義の危機意識から、立憲君主制の安定性が再評価されているのも、歴史から学ぶべき知恵だとソムリエは思っています。

右・左思想の基準

 そもそも、右だとか、左だとか言っても、その基準が曖昧です。その国の政治体制は憲法に明記されていますのでそれが基準です。ソムリエは左寄りだと批判した方が居ましたが、その人は憲法より右に居ると言う事です。明治憲法のような天皇主権の政治体制を願う人には、現憲法は左翼思想だと言う事になります。また、天皇制は廃止すべきだと言う人には現憲法は、右翼だとなります。日本は法治国家ですので、現憲法の象徴天皇制が国家の体制です。これを基準に考えるべきで、ソムリエは現憲法を支持します。ですからソムリエは体制派、憲法体制派です。決して反体制人間ではありません。

天皇制の歴史

 ここから拙著「モダニテイ下巻、近代民主主義、近代資本主義とキリスト教」「時のしるし」の天皇制の項に基づいてお話しします。そもそも天皇制の歴史を見ると、政治に関与する「執政天皇」と、そうでない「不執政天皇」が存在しました。明治憲法は、天皇は統治者でしたから、執政天皇制です。ただ現実政治の渦に天皇が巻き込まれないように、学界、官界は「天皇機関説」で守ろうとしました。しかし、現実には天皇の統帥権を嵩にきた軍部に祭り上げられ、国家破滅に至りました。その苦い経験から、不執政天皇制を選んだ。「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する国民の総意に基づく」(第一条)と規定した。実によき表現だと思う。象徴と言う概念は決してこの時の思い付きではなく、すでに大正デモクラシー時代に、柏木義円牧師が「国家は国民の結晶である。国家の意思は即ち国民の最高意思で、主権は即ち其れである」として国民主権論を唱え、驚くべきことに「有形の君主をして其の国家の主権を象徴せしむる」と象徴天皇論を既に説いているのです(「君主国体と民主主義」、上毛教界月報,大正8年1月15日、「デモクラシーの神学思想」近藤勝彦、教文館より)

象徴天皇制

 さらに現憲法の象徴天皇制における、象徴とは何かです。天皇の行為には、①国事行為、②宮中祭祀、③象徴的行為があり、他の行為は私的行為だと言う説がある(朝日新聞、2018年12月22日)。現天皇は即位以来、象徴とは何かと考え続けてきた、そして国民に寄り添う事、特に先の大戦の犠牲者の慰霊、災害の被災者、またこれから増えるであろう外国人労働者に、心を寄せる事こそが、自分の象徴行為だ、いやこれこそ象徴性の本質だから次代天皇も継承してほしい旨、最後の天皇誕生日のメッセージでした(2018.12.22)。確かに現天皇の傷める国民への寄り添いの姿勢は、国民の圧倒的支持があります。ソムリエも高齢になっても膝を屈して被災者を見舞う姿に心打たれました。これは歴代天皇にはなかったユニークな行為です。ジャーナリストの萩谷順氏が、カソリックの影響の強い美智子皇后の影響で、カソリック作家遠藤周作の説く、人々の悲しみに寄り添う永遠の同伴者イエスの姿に倣ったものではないかと言われます。なるほど合点がいき共感を覚えます。しかし、法は厳密でなければならない。「象徴的行為」は憲法に規定がない行為であり、学説です。厳密には憲法に規定のある「国事行為」以外は天皇の私的行為です。

 そもそも天皇は存在そのものが象徴なのです。何を象徴するのか。それは憲法に規定された①国民主権、②基本的人権の尊重、③平和主義、の三大原理の象徴なのです(「デモクラシーと国民国家」福田歓一、岩波)。次に象徴天皇の行為としては、憲法に規定された国事行為とそれに付随する行為だけが象徴的行為なのです。他は私的行為です。ですから現天皇の理解する、またその様に理解する憲法学者は拡大解釈だと言わざるを得ません。もし、憲法に規定されていない寄り添い行為が、象徴的行為だと現天皇が私的に悟られても、後代の天皇が、明治憲法時代の様に白馬に跨って自衛隊を閲兵するのが、象徴的行為だと言い出しても、これを正すことができなくなります。まして、安倍内閣の憲法改正案で、9条に自衛隊を明記すれば、その様な要請が、日本会議や神道連盟から起こるのは必定です。

 法は厳密でなければなりません。譲位の大嘗祭は宗教行為だから、政教分離の憲法規定に反する、天皇家の私的行為だから、天皇家の内廷費から支出すべきだとの秋篠宮の意見は筋が通っています。そして神道儀式を国事行為にしようとする勢力から天皇制民主主義を守るべきです。神道儀式は天皇家の私的行為であり、さらには天皇にも私的に信教の自由があり、キリスト教を受け入れられて、何ら可笑しくないのです。歴史的には仏教が皇室の宗教であった時代もあったのです。国家神道は明治以来の最近の話ですから。

 法は厳密でなければならない、と言う事は、現天皇が事あるごとに“私は憲法に従って・・”、とおっしゃってきたのは、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」(99条)と言う規定、すべての公務員の憲法尊重擁護義務規定に基くからです。現憲法が嫌なら、天皇にも公務員にもなってはならない。それを行政のトップの安倍首相が憲法改正の音頭取りをするなど、憲法違反の極み、クーデター(体制転覆)行為です。もちろん政党人は自由に改正を主張できます。しかし、公務員は憲法尊重擁護義務誓約を求められているのです。法を守り、執行するのが公務員ですから当然です。

元号について

 5月1日に新元号に変わることですが、グローバル化の時代に、元号など日本だけに通用するローカルなものでビジネスには不便だとの意見があります(勿論、仏教の仏滅紀元、イスラムのヒジュラ紀元、北朝鮮の主体紀元がありますが、マイナーです)。また、元号は天皇の歴史支配であり、国民主権の民主主義には合わないと言う見解もあります。しかし西暦でもキリスト誕生を起点としており、様々な宗教多様性の時代にはおかしいと言えます。最近ではAD,BCではなく、CE(Common Era, Before C.E、世界共通歴)を使う歴史学者もいますが、大勢にはなっていない、西暦がデファクトスタンダード(事実上の標準)になっています。さらに、グローバル化は無個性ではなく、かえってローカル性こそが評価されるので、日本の文化としての元号もあっていいのではないか。残るものは残り、そうでないものは自然に淘汰されますよ。もっともソムリエはキリスト教徒ですので、証のためにも西暦を使用するよう努めていますが。

神とカイザル

 バイブルでイエス様は「カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返しなさい」と言われた。難しい解釈は専門書に譲り(「イエスとその時代」荒井献、岩波新書)、宗教と政治の関係を、政教分離の元となる教えと考えておかしくない。政治と宗教は分離したうえで、どちらにも関わるべきなのです。一般人は政治には関わるが宗教には無関心、キリスト者は逆に神には関心を示すが、政治にはノータッチ。両方共に偏っているのです。人間には魂の救いの領域と、この世の社会生活の両面があるのですから。天皇制はこの宗教と、政治の両面に係る微妙な問題をはらむ重要な課題です。ソムリエの意見も参考にしていただければ幸いです。

「カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返しなさい」
           (聖書:マルコの福音書12章17節)

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亀井俊博(かめい としひろ)

1942年香川県に生まれる
単立「西宮北口聖書集会」牧師、「芦屋福音教会」名誉牧師
同志社大学法学部法律学科卒、日本UPC聖書学院卒
(同志社大学神学部、神戸改革派神学校、神戸ルーテル神学校聴講)
元「私立報徳学園」教師、元モンテッソーリ幼児教室「芦屋こどもの家」園長
元「近畿福音放送伝道協力会」副実行委員長、
元「JIFH芦屋大会実行委員会」事務局長

*<亀井俊博牧師のブログ>
「西宮ブログ」の『バイブルソムリエ

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(4)「モダニテイー(下巻):近代民主主義、近代資本主義とキリスト教」講話: 200円

  
(2)「人生の味わいフルコース」キリスト教入門エッセイ: 100円
(1)「1デナリと5タラントの物語」説教集: 100円

『人生の味わいフルコース』
内容:お料理の味付け、甘辛酸苦旨の五味を人生論風にバイブルから説き明かしたキリスト教入門書。

 

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