山上事件を公開情報と本人供述から検証する【上】——「宗教被害ナラティブ」は事実と一致しているのか

 

 

 

中川晴久
東京キリスト教神学研究所幹事
SALTY-論説委員

安倍晋三元首相銃撃事件以降、日本社会には「山上徹也被告(以下、山上)は旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の“宗教被害者”であり、その帰結として凶行に及んだ」という物語が、広く流通してきた。

山上の裁判員裁判は、2025年12月18日に結審し、2026年1月21日の東京地裁判決を迎えようとしている。ところが事件から約3年半にわたり公判が長期化する過程で、山上の人物像は、当初の印象とは異なるかたちで語り直されていった。象徴的なのが、いわゆる「宗教被害者としての山上」というイメージである。

この認識は、メディア報道や一部ジャーナリストの発信によって、ほぼ前提のように扱われてきた。しかし、公開されている事実、裁判で明らかになった供述、関係者の証言を丁寧に点検すると、世間に流布してきたナラティブ(物語)には、見過ごせない齟齬が存在する。

本稿では、確認可能な情報に基づき、通説とされてきたポイントを一つずつ検証する。

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