西岡力・日本キリスト者オピニオンサイトSALTY 主筆
拉致被害者救出の絶好のチャンスを生かしたい
拉致問題が最大の山場を迎えています。
北朝鮮の独裁者金正恩が、米国の軍事圧力と国連の経済制裁に音を上げ、ついにトランプ大統領に会談を求めてきました。トランプ大統領は3月8日、北朝鮮が核ミサイルを放棄する気があるなら会ってもよいと、会談に応じると返事しました。その後、3月22日、対北原則論者のジョン・ボルトン氏を外交安保補佐官に指名しました。外交安保補佐官は日本で言うなら外交と安保分野の官房長官にあたる政権の核心的地位です。
補佐官人事は議会の承認が必要ないので4月9日から、ボルトン補佐官が仕事を始めます。ボルトン氏はこの間、北朝鮮の核ミサイル放棄はリビア方式でなされなければならないと一貫して主張してきました。
リビアの独裁者カダフィは2003年3月、米国がイラクのフセイン政権に対して軍事攻撃をしかける直前に、英国の情報機関を通じて米国に核ミサイルをはじめとする大量破壊兵器廃棄の意志を伝えてきました。そして、米英の情報機関と交渉を続け、同年12月、大量破壊兵器廃棄を約束し、翌年に米英の情報機関員を国内に入れて徹底的な査察を受け、核兵器、核開発施設、弾道ミサイルなどをすべて米国に持ち出すことに応じました。それをしないと、テロとの戦争のターゲットになって米国の軍事攻撃にさらされることを恐れたのです。これがリビア方式です。
ボルトン新外交安保補佐官は北朝鮮に対して、米国の情報機関員による徹底した査察受け入れと、核兵器と弾道ミサイル、それらの開発施設などすべてを国外に持ち出して破壊することを求めるべきだと、主張していたのです。金正恩はこの人事を見て震え上がったはずです。それで、これまで国内で「第1の的は米国でなく中国だ」などと言っていたことをくつがえして、急ぎ習近平に面会を求めたのです。
米朝首脳会談のための裏交渉は今も続いていると言います。米国は国務省の職業外交官ではなく、CIAの情報機関員が交渉を担当しています。これはリビアの時と似ています。ボルトンを起用したことで、トランプ大統領が金正恩との会談で、たとえばICBMの即時廃棄と核廃棄のための交渉開始などという中途半端な譲歩をする可能性はほぼなくなりました。
残る可能性は、金正恩がカダフィのように自分の延命を願い、リビア方式を受け入れるというような大幅な譲歩をしてくるか、会談が決裂して軍事緊張が高まることです。前者の場合、当然、見返りとして経済支援が浮上します。米国は日本の経済協力をあてにするでしょう。そのとき、全拉致被害者の一括帰国が経済協力の条件だと固く主張すれば、核問題で大幅な情報をした金正恩が横田めぐみさんらを返す決断をする可能性は高まります。
また、軍事緊張が高まった場合、2002年の小泉訪朝型で北朝鮮が米国の攻撃をかわすため日本に接近しようとする可能性が浮上します。具体的には拉致問題をテーマにした安倍首相訪朝があり得ます。
ボルトン新補佐官は横田めぐみさんの家族をはじめとする家族会メンバーや私たち救う会の幹部と6回以上面会し、拉致問題の深刻さを熟知しています。彼は2003年9月、初めての面会でめぐみさんの弟から13歳の少女が拉致されたと聞いて、上半身を乗り出し顔を真っ赤にして「オー」と言いながら怒りを露わにしました。そのボルトンがトランプ大統領の最側近となり、米朝首脳会談が5月末までに持たれます。
まさに大きなチャンスです。私たちは3月29日に都内で「チャンス到来、金正恩に拉致被害者帰国を迫れ!緊急集会」を開き、翌日30日安倍総理に面会して集会決議を渡し、このチャンスを生かすため最大限の努力をして欲しいと要請しました。安倍総理はきたる4月17日、18日の訪米でトランプ大統領と首脳会談を持って、拉致被害者救出への協力をしっかり求めてくると語りました。
4月8日付けの産経新聞には横田滋・早紀江夫妻の手記「『最後のチャンス生かして』首相にお願いしてきました」が掲載されています。産経新聞は1980年1月に日本で一番最初に拉致事件を報道して以来、この問題をもっとも積極的に報道してきました。
https://www.sankei.com/premium/news/180408/prm1804080020-n1.html
安倍総理に手交した決議文は以下の通りです。
■チャンス到来、金正恩に拉致被害者帰国を迫れ!緊急集会決議文全文
すべての拉致被害者を取り戻す大きなチャンスがやってきた。日米が主導して作り上げた強力な圧力に音を上げ、金正恩がトランプ米大統領に会談を申し込んできたからだ。しかし、これからが正念場だ。北朝鮮はこれまで何回も圧力から逃れるため譲歩するふりを見せながら、最後にはウソをついて政策を変えなかった。
たとえば、2008年、北朝鮮は核廃棄と拉致被害者再調査を約束したが、米国から金融制裁とテロ支援国指定の解除を得たあと、再調査を中止し、核実験を行った。あのとき、私たちはブッシュ政権担当者らに繰り返し、拉致は現在進行形のテロだから全被害者帰国まで制裁を解除すべきではないと迫った。担当者は北朝鮮と交渉する度に日本人拉致問題を取り上げていると弁解した。しかし、北朝鮮の口約束を信じて核問題だけでなく拉致問題でもだまされた。
だからこそ、私たちは全被害者の一括帰国を金正恩に迫ってほしいと、トランプ大統領に強く求めたい。拉致問題を議題にするだけでは、2008年と同じようにだまされるだけだからだ。
安倍晋三首相は、4月に訪米してトランプ大統領と会談し、対北政策をすりあわせする予定だという。安倍首相には、5月の米朝会談において米国が単に拉致問題を議題にするだけでは不十分であり、全被害者の一括帰国を求めなければならないとトランプ大統領を説得してほしい。
日本政府はこれまで被害者の生存を示す多くの情報を集めてきているはずだ。その情報を活用して大統領に、13歳で拉致された少女を含む多くの無辜の民が北朝鮮で助けを待っていることを明示して説得してほしい。
全被害者の一括帰国なしにはいかなる制裁緩和も経済支援もあり得ないという強い姿勢を日米が共有し、韓国、中国をはじめとする関係国にもそれを共有させるべく、わが国のもてるすべての力を注ぐべきである。
● 私たちは以下のことを政府に強く求める。
1.政府は、きたるべき米朝首脳会談で、トランプ大統領が金正恩に対して、全被害者の一括帰国を迫るように、強く求めよ。
2.政府は、全被害者の一括帰国実現なしに国際社会の対北制裁が緩和することのないように全力を尽くせ。
3.政府は、南北、米朝首脳会談を最大限に活用し、全被害者の一括帰国を実現せよ。
平成30年3月29日
「チャンス到来、金正恩に拉致被害者帰国を迫れ!」緊急集会参加者一同