入管法改正議論に欠ける国益への目配り −西岡力−

 

 

 

西岡力
日本キリスト者オピニオンサイト -SALTY-  主筆
国基研企画委員兼研究員・麗澤大学客員教授

 

在留外国人の人権擁護は大切な課題です。しかし、自国の法秩序の維持という国益もまたないがしろにはできません。ぜひ、この問題で改正案を提出した入管庁の側の主張も読んで欲しいです。
政府与党は改正案の取り下げを決めたようですが、その結果、むしろ送還忌避者の収容や仮放免が増え、人権も法秩序も後退しないか心配です。(西岡力   5/18)


入管法改正議論に欠ける国益への目配り

2021.05.17 (月)

 今、国会では、送還忌避者(退去命令を受けながら送還に応じない外国人)の処遇などに関する出入国管理法改正案をめぐり、与野党が激しく対立している。
国基研(国家基本問題研究所)は平成30年12月、外国人労働者の受け入れを拡大する前回の入管法改正の際、中国人永住者が急増していることに危機感を持ち、永住許可条件の厳格化を求める提言を行い、参議院はその問題意識を共有して永住許可審査の厳格化を求める付帯決議を付けて同改正案を成立させた。

 今回の入管法改正案でその観点が全く生かされなかったのは残念だ。外国人政策は、人権擁護と国益という二つの観点を十分考慮して推進されるべきだ。

 ●増加する退去拒否者

 今回の改正案をめぐる議論は、国益への目配りが不十分だと言わざるを得ない。マスコミの多くは改正案に反対するいわゆる「人権派」の声を多数報じている。(驚いたことに、東京弁護士会は令和2年に、全ての送還忌避者に就労ビザを与えよという提言をしている)。しかし、人権派の意見だけでは全体像は分からない。
改正案提出の理由は、「退去命令を受けたにもかかわらず送還を忌避する人が後を絶たず、収容長期化の要因となっている」(上川陽子法相趣旨説明)ことなのだ。

 法務省によると、令和2年末の送還忌避者は約3100人(収容約250人,仮放免約2440人,逃亡手配約420人)であり、そのうち1年を超える実刑判決を受けた者が約490人、難民認定申請3回以上の者が約540人だ。収容者数も増えている。平成30年6月末現在で、1494人が収容されている(うち6カ月以上の長期収容者704人)。25年末には収容者914人だったから、5年で約1.5倍に増えた。収容者医療費も、25年に1億2323万円だったのが、29年に2億4419万円と倍増している。

 ●人道面には配慮

 そこで今回の改正案では、一部に見られる難民申請の乱用による送還忌避を減らすために3回目の申請中から送還を実施できるようにし、逃亡者防止のため罰則を新設した。その一方、難民資格は認められないが人道的理由がある者を「補完的保護対象者」として在留を認める制度を新設するなど、人権にも配慮した。

 難民認定される比率が欧米に比べて低いという批判に対しては、陸続きで外国と接する国との事情の違いがあり、一概に日本が非人道的だとは言えない。すでに法相の裁量で与えられる特別在留許可による人道的配慮は行われており、令和元年には退去強制に異議を申し出た者の6割強、1448件が特別在留を認められている。センセーショナルに報じられている収容所内で病死したスリランカ女性は、留学ビザで入国して学費を滞納し、在留資格を喪失して不法滞在になったケースで、難民申請者ではない。

(了)

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・2021年 5月17日 JINF(国家基本問題研究所)掲載記事より