トランプ2.0のゆくえ −亀井俊博−

写真:White House Wikimedia より

 

 

 

バイブル・ソムリエ:亀井俊博

「芦屋福音教会」名誉牧師
「聖書を読む集い」牧師

“トランプ2.0のゆくえ”

2025年1月16日

            トランプ2.0

アメリカのトランプ2.0大統領政権が1月20日にスタートします。
この異形な政権の基盤は何か?またその目指すところは何か?世界はその影響を免れないがために、注目しています。以下、様々な意見を勘案しながら、筆者なりの理解を申し述べたいと思います。

            支持基盤層

まず、この特異な政権の支持基盤です。1.0政権時代と今回の選挙運動中の動きの中で分かってきた事ですが、米国の歴史の中核を形成してきた多くの民衆です。しかも彼らは時代の激変に取り残され、努力が報われずルサンチマン(怨恨)が鬱屈していた。それを敏感に掬い上げたトランプ氏が彼らの代弁者となり、支持の岩盤層を形成した。具体的には、昔はWASPと呼ばれた白人アングロサクソン男性中心福音派プロテスタント、それも非大卒労働者です。

筆者のイメージでは、あのTV番組“大草原の小さな家”、大きな欽定訳家庭用バイブルがテーブルにドンとあって、家族そろって食前にお祈りする信仰熱き働き者の強い父親がいて、それをしっかり者の母親が支え家族で農場や、牧場を勤勉に働いて経営。家族の結束固く自助・自立心が強く、外敵には家に立ち籠って家族総出で銃を手に守る。日曜日には同じような家族の集う教会を中心としたコミュニテイは平等で、タウンシップ(基礎的共同体)を形成、コミュニテイの課題、道路、橋、学校、・・等の建設、維持問題があれば、タウンミーテイングで討議・解決。コミュニテイの公的役割、教会の牧師、学校の教師、保安官は、ボランテイアか自分たちの費用で雇う自治。タウンシップの代表がカウンティ(郡)代表、その代表が州(ステイト)政府を形成、独自の憲法と議会と通貨や軍を持つ。そして50州の連邦(フェデレーション)として中央政府(ユナイテッド・ステイツ、合衆国政府ガバメント、大統領、首都ワシントン、最高裁判所、連邦政府軍、ドル紙幣)、と下からの民主制が確立している。ドイツや日本の様な後発民主国家の上からの民主制とは発想が違う。古き良き時代old good dayasのアメリカ像です。戦後、廃墟の補日本に米国から大挙遣わされた宣教師たちから受けた、温かい福音派信仰の恩恵を忘れることはできません。

この様な草の根のアメリカ史形成者、ルーツをたどると、イギリス・オランダ等から国教会の形式的な信仰に飽き足らず、信仰の自由を求め新大陸に移住した清教徒たちにたどり着きます。初めは農業・牧畜業からやがて鉱工業労働者として、自主・自助・自立心が強く、政府の干渉を嫌う「小さな政府」を指向。今日の米国の最大勢力福音派の形成です。
日本では福音派と言うと、頑迷固陋な宗教原理主義者たちの集団とジャーナリズムや知識人は蔑視報道しますが、とんでもない温かい福音派信徒や教会は、多くの人たちを引き付ける魅力があり、最新ITやエンタメを駆使するメガチャーチが数多くあり、そこから生み出されるボランテイア、ドネーション(寄付)の貢献抜きに、米国の教育、学問、福祉医療、芸術、NGO活動は考えられない力があります。しかし日本の報道は実態を知らない偏向でメデイア・リテラシー、アカデミック・リテラシーが必要です。

草の根の福音派に対して、中央政府や大企業経済界を形成したエリートたちは、清教徒たちが新大陸に来た時指導者として活躍した、ケンブリッジ・オックスフォード出身でイギリスや大陸のエリ-トたちと話の出来る知識人でした。彼らは英国・大陸の啓蒙思想の影響下にあり(大西洋革命)、キリスト教も奇跡は排徐する合理的な理解、“理神論”(神天地創造の一撃トリガーを引いただけで、後は自然法則に従って世界は時計の様に運行しており、神の介入の余地はない。人間は理性で世界を理解し、支配できるとする。)でハーバード大学はじめアイビーリーグのエリート層を形成。政界、財界、官界、教育界、軍事等全ての面で、合衆国をさらに今日は世界の最大強国として君臨指導し、神学的にはリベラル派と言われます。日本ではキリスト教大学のミッションがリベラル派が多く、福音派は軽視されがちですが、米国の実態は全く逆で、是非認識を改めて頂きたいものです。

          支持基盤層のルサンチマン

リベラル・エリ-トたちの推進するグローバル化により、米国の中核を形成していた白人非大卒の労働者の属する産業は、後発諸国の追い上げで次々衰退、鉄鋼、電機、自動車・アメリカの主要産業がドイツ、日本、韓国、中国に産業移転。ついに鉄鋼の町ピッツバーグはラストベルト(錆ついた産業地帯)、ゴーストタウン化。しかしエリートたちは巧みに金融、IT革命でニュー・エコノミーに転換し、巨万の富を形成。オールド・エコノミーのブルー・ワーカーは置き去り、さらに移民政策によりWASPは、黒人、ヒスパニックの増加で、数の面でも脅かされてきた。またエリートたちは、少数者尊重のリベラル思想を進め、フェミニズム(女権拡大)、ブラック・イズ・マター(黒人人権闘争)、性的少数者尊重(LGBTQ)、地球環境問題を掲げ、WASPの伝統的価値観、反進化論、妊娠中絶反対、白人男性中心主義、化石燃料依存、・・は反動として排除(キャンセル・カルチャー)された。

かくして経済的にも心情的にも追い詰められたWASPは、その信仰的基盤の福音派教会の中に立てこもった。彼らは、エリートの理神論的冷たい信仰でなく、熱い心情的・霊的信仰、リバイバリズムの中に生きて、政治には無関心であった。がしかし彼らの報われない、エリ-トに裏切られたルサンチマンはマグマの様に蓄積し、リベラルの支配するエスタブリッシュメント政府ををデイープ・ステイトと黙示録的・陰謀論で理解し始めた。そこに稀代の鋭いメデイア的政治感覚の持ち主、トランプ氏は注目。非エリ-トに受けるマッチョで野卑な言動を、エリートたちには眉を顰め、蔑視されたが、福音派の圧倒的支持を受けて、トランプ1・0が誕生。一時エリート層が巻き返しバイデン政権があったが、今やトランプ2.0として圧倒的存在を示すようになった。

            トランプ氏の未来

しかし筆者の見るところ、トランプ支持層は過去のアメリカ、古き良きアメリカの自画像“大草原の小さな家”にあり、今はノスタルジックな幻想にすぎない。MAGA、偉大なアメリカを再び取り戻す、と言ってもノスタルジーは過去向きで、時間の矢は、決して逆戻りはせず未来を求める。トランプ氏にはそれがない、と言うのが見たてでした。そこにアメリカの未来を引っ提げトランプ支持に回ったのが、イーロン・マスク氏だと思います。過去に支持基盤を持つトランプ氏はここにアメリカの未来を手に入れたと言うべきでしょう。トランプ氏の腕力と、マスク氏の知力がタッグを組めば、これは面白くなりますよ。果たして,吉と出るか凶とでるか、いやそんな賭け事ではなく、世界の運命であり我々の世代はもちろん子孫にも影響を与える出来事だと思いますので、論を進めましょう。

            テクノ・リバタリアン

筆者がかつて書きました“「テクノ・リバタリアン」を読む”というブログで、評論家の橘玲氏の著作を紹介したことがあります(2024・7・31)
(*参考のため、別添再録します)。
あの本が今や陽の目を浴びる事態になったのです。マスク氏はアメリカはおろか世界の科学技術、産業をリードする、カリフォルニアのシリコンバレーの天才たち、ギフテッド達(天与の才能)の代表的人物です。彼らは超高いIQの持ち主たちで一般人には理解を超えた天才たちです。世界各地の出身で自国で理解されず、自由の国アメリカに渡ってその異才を発揮。それがコンピュータを駆使してデジタル革命を起こし、金融、流通、IT技術、AI、量子コンピュータ開発、EV自動車、宇宙開発、生命工学にと、新しい人類の未来を切り開いています。これが“テクノ(ロジー)”の意味です。

リバタリアンは“リバテイ”人間の自由を極度に押し進め、既成の考えや、制度的束縛から解放することにより不可能が可能になると言うのです。人間は失敗を恐れ、既存の利害が侵されることを怖れ、数々の規制を設け新しい発想を抑圧し人類の発展を妨げている。だからあらゆる可能性を自由にやらせろと言うのです。まさにケインズのいう資本主義の精神の一つ“アニマル・スピリット”の持ち主です。テクノ・リバタリアンは、極度に規制を嫌い、自分たちの超高度なテクノロジー的発想を自由な無限の可能として追求、最後には死も克服し永遠に生きようと思っている。トランプ氏とマスク氏が組むMAGA運動2.0は、新たに福音派とテクノ・リバタリアンが協働すれば実現できる、と思っているのではないでしょうか。

           トランプ2.0の可能性

筆者は預言者ではないので、結果は見通せません。しかし橘玲氏の著作にある次の指摘に、重要なヒントがあると思います。それはアメリカの未来、そして恐らく世界の未来を切り拓くであろう“テクノ・リバタリアン”はIQ(知的能力)は異常に高いが、EQ(共感能力)が極端に低いか、欠落している、との指摘です。彼らは問題が数学で解決すれば満足する、しかしその結果を人はなぜ喜んだり悲しむのかが分からない、だから一般人と軋轢を生むことが多い、と言う。ですからテクノ・リバタリアンはほとんどが男性で、女性は少数とのこと。これは恐ろしいことです。彼らは全てが数学に還元できると思っている数学の天才たちです。しかし世界は数学だけで成り立っていますか!痛みも、悲しみも、つらさも、また喜びも愛も、感謝も賛美もありますよ。

経済学のシュンペーターが、資本主義の停滞を破り成長するダイナミズムには“創造的破壊力”が必要と言ったとか、まさにトランプ大統領のサムソン的既成秩序破壊力と、マスク氏・テクノ・リバタリアンのソロモン的知力がタッグを組むのはいいのですが、結果に不安があります。ここに福音派キリスト教の、温かい心情的霊的信仰の出番があります。十字架に命を投げ出したイエス様の愛から来る隣人愛、死の悲しみ、絶望から復活した歓喜、聖霊の満たしによる平和、死に打ち勝つ天国の希望等。是非これからの世界は高いIQテクノロジーを必要条件としながらも、福音派キリスト教の神の愛に発するEQ愛を十分条件として進んでほしい。この方向性に行けばトランプ2・0の可能性はあり、無視すれば冷たいAIの支配するデストピア(暗黒世界)になります。

  良き方向に導かれるよう切に祈るものです。

   「愛にあって真理を語りなさい」エペソ4:15

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(参考資料)

 “テクノ・リバタリアン、を読む” 2024・7・31

バイブル・ソムリエ 亀井俊博

            緑陰読書

緑陰読書と昔の人は言いました。消夏法の一つで、涼しい木陰で読書三昧、暑さを忘れるのです。さらにソムリエは80才を過ぎ、頭が付いていける間に読みたい本を読もうと思っています。今回は「テクノ・リバタリアン」(橘玲、文春新書)で、副題が“世界を変える唯一の思想”で大げさです。シリコンバレーに集まる、天才にして巨大富豪たちの特色を描きだす、ソムリエの様な凡人には付いて行けない世界ですが、拙著「138億年のメタ・ヒストリー」の到達点のその後を示唆し、とても興味深かった。また、現在進行形のアメリカ大統領選挙で、従来民主党支持の「テクノ・リバタリアン」たちが、バイデンを見限りトランプ支持に回り、巨額の選挙資金を提供しはじめ、にわかに彼らの影響が世界の今後を左右し始め、本書の意義は大きい。

           橘玲の著作の位置づけ

まず、拙著の到達点を述べます。拙著では、宇宙138億年の長大な時間を、4つの「枢軸時代に」区分すると見通しが良くなるとします。まず宇宙開闢後38万年に「自然法則」が生まれた。これが「宇宙史の第一枢軸時代」で、法則の中の法則が「エントロピー増大の法則」です。全物質・エネルギーは不可逆的に分散し、究極的に死滅するのです。宇宙はその後分散膨張し続け、46億年前地球が生まれ、40億年前「生命」が誕生、これが「宇宙史の第二次枢軸時代」です。生命とは究極的に宇宙の死滅を必然とするエントロピー法則に逆らって、永遠に存続する欲望をもつ存在です。しかし究極的には、根本法則に服して、生命も死滅する運命にある。さらに700万年前、生命は人類を生みだし、現生人類ホモ・サピエンスが20万年前に出現し全地球上に展開。

さらにBC7世紀ごろから紀元前後にかけて、いわゆる世界の4大文明がほとんど相互に無関係に、しかも同時多発的に発生。古代科学、帝国、宗教、思想が生まれ「精神革命」が起こった。これが「人類史の第一次枢軸時代」です。それらが今日に至る人類の歩むべき「規範」を提示した。インド教・仏教、中国儒教、ギリシャ哲学、中東の一神教、である。さらに17世紀ヨーロッパでキリスト教文明からのみ「近代革命」が起こった。「近代科学」、「近代民主主義政治」、「近代資本主義経済」です。だが18世紀「啓蒙思想」による「フランス革命」以来の「聖俗革命」を成し遂げ、脱キリスト教化した近代は、19世紀「産業革命」以来、全世界に展開して現代に至る。「聖俗革命」後の、神無き「成人した近代世界」は一体どこに向かうのか?本書はその一端を垣間見せ、興味は尽きない。

           テクノ・リバタリアンの紹介

本書によると、ホモ・サピエンスの20万年の歴史上、人類の平均個人所得はほとんど変わらない。もちろん人口増により生産力は少し増大したが、国家や宗教が富を収奪し、個人には還元されなかった。しかし「近代革命」、「聖俗革命」の成果としての「産業革命」以降、指数関数的(エクスポネンシャル)に個人所得が急増、世界的に個人が豊かになってきた。それは、①「近代科学」の成果としてのテクノロジーの急激な進歩、②王・貴族・宗教を排した市民革命以来の、「民衆」主体の政治「民主主義政治」、③民衆の欲望を投機や蕩尽ではなく「投資」に向かわせた「近代資本主義」の成果である。その「近代」のショー・ウインドウとも言うべき、アメリカ、カリフォルニアの“シリコン・バレー”に集う天才たちは、重厚長大のオールド・エコノミーの行き詰まりを、コンピュータによる「デジタル革命」で切り拓き、今爆発的な「テクノ・リバタリアン」時代の幕が開いたと言う。

では「テクノ・リバタリアン」とは何か?

            テクノとは何か

「テクノ」とはもちろんテクノロジー(科学技術)です。彼ら天才たちの特徴の一つは、とてつもなく賢い、特に数学の異常な才能に恵まれている点だ。脳科学では「IQ脳」と「EQ脳」がある。前者は知的・論理的脳で、後者は「情緒脳」で共感脳である。一般に知られているのが、いわゆるIQ(知能指数、Inteligent Quotient)の高さ、IQ100を平均値としてなだらかに左右に減少し、IQ175を超える人間は天才です。世界で 2,300人、日本人では30人しかおらず、まさに「ギフテイッド」(天与の才能の持ち主)なのです。テクノ・リバタリアン達はギフテイッドなのです。しかし彼らは共通して「EQ脳」(共感指数、Emotional Quotient)が劣っており、通常人の喜怒哀楽が理解できない、そこで孤立化し理解されない変人扱い、しかしシリコンバレーには世界各地(イーロン・マスク、起業家、1971年南アフリカ生まれ、スペースX,テスラ、オープンAI、X(旧ツイッター)設立。ピーター・テイール、投資家、1967年ドイツ生まれ、ペイパル、フェイスブック創立。/第一世代。サム・アルトマン、1985年米国生まれ、起業家、オープンAI設立。ヴィタリック・ブテリン、1994年ロシア生まれ、ブロックチェーン・プラットフォーム、イーサリアム考案/第二世代)から「IQ脳」の天才たちが集い、彼らは互いに理解しあえ、切磋琢磨して世界的な「デジタル革命」をビッグバン的に推進した。

           リバタリアンとは何か

次に「リバタリアン」であるが、“自由至上主義者”と訳される。一般に政治的立場を“リベラル”か“保守”かで分ける。“リベラル”は社会的弱者への福祉を重視、マイノリテイの人権尊重、被性差別者LGBTQ、人工中絶の権利擁護、環境保護を説く、これらを認めない者を社会的に排除(キャンセル・カルチャー)さえするいわゆる進歩派文化人を先端とする都市高学歴サラリーマン層である。必然、福祉の経費は、高所得者、企業から税を取って分配する、「大きな政府」となる。他方“保守”は、伝統的な宗教・慣習を重んじ、自助自立の精神に富み、しかも共同体を大切にする「コミュニタリアン」である。宗教原理主義、地方の共同体生活、を重視し、これを脅かす者を警戒、排除する傾向にある。中絶反対、LGBTQ反対、環境規制に消極的。農村部や、いわゆるラストベルトの白人非大卒労働者層に多い。従来は自助自立尊重で「小さな政府」支持であったが、産業転換に遅れ、経済力を失い福祉を求め「大きな政府」の傾向が強くなっている。

さて肝心の「リバタリアン」は、様々な慣習・制度・宗教・常識にとらわれず、絶対的自由を追求する所に、価値を置く自由至上主義者である。国家や政府の規制を嫌悪する。平凡な民衆も忌避する。彼らはその天才を自由に発揮し、全く新しい発想の商品を生み出し、それなくして世界が生活できないようなシステムを作り、巨額な富を手にする。グローバリズムの申し子です。イーロン・マスクは65兆円個人資産ジェフ・ベゾス(アマゾン)、ラリー・エリソン(オラクル)、ビル・ゲオツ(マイクロソフト)、ラリー・ピジとセルゲイ・ブリン(グーグル)、マーク・ザッカーバーグ(メタ/フェイスブック)・・軒並み10兆円級資産家である。GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)の創立者、CEOたちである。彼らに日本経済は2023年度5・3兆円余もデジタル支出を支払っている。食料輸入額10兆円の実に半額に達する。

本書によると彼らは人類を一握りの天才集団「テクノ・リバタリアン」と、その他大勢の人類に分け、テクノ・リバタリアン達が、ITとロボットで全産業をコントロールし、その収益をUBI(後述)でその他大勢の人類に配分できる未来社会。統治者であるエリートが、一般市民を植民地と見做し彼らの功利的ニーズをリアルタイムでは把握し、必要なものを必要な時に提供する。たとえば、ナノロボットが市民一人一人の体内を循環し生体データを収集し、情報をサーバーに送り、最適な栄養がとれる食事が最適な時間に届けられる「総督府功利主義」支配によって人類を管理しようする未来図としている。しかし果たしてこれがユートピアなのか?むしろジョージ・オウエルのSF小説「1984年」で、テクノエリート集団である“ブラザーズ”によって管理支配される近未来、あるいは中国で、共産党エリ-トが14億の人民を、無数の監視カメラで行動を把握し、犯罪ゼロ社会達成と言う、テクノ権威主義とどこが違うのか。既に巨万の富を得た彼らこそ、いわゆる格差問題の元凶と目されており、市民の憎しみの対象とされることを怖れ、サム・アルトマンはこれを解決するため全人類に彼らの富からUBI(ユニバーサル・ベイシック・インカム、基礎的生活費)を支給するべく活動している。また、やがて限られた地球資源の解決のため、イーロン・マスクは火星に移住することを社是として、スペ-スX社を設立、宇宙に飛び立とうとしており、ジェフ・ベゾスは地球資源枯渇解決のため、月の資源を地球に持ち帰る計画を立てている。

かくして「テクノ・リバタリアン」達は、テクノロジーによって地球上のすべての問題を解決しようとしている。

彼らは無敵か?そうではない、彼らは「死」を恐れ、愚かな人類が破滅的な戦争を引き起こす事を怖れているプレッパー(prepper、準備する者)です。彼らは自分の体を永久凍結し、テクノロジーが「不死」を手にしたときに解凍して、永遠の生を願っている。また終末を怖れ、シェルタ―を用意、また終末時最も安全な国としてニュージーランドを選び、広大な避難設備を用意していると言う。

               感想

ソムリエの感想。彼らは「IQ」過剰の天才だが、その知性の過剰性は確かに、スマホの様に現代人の必須アイテムとなって、利便性豊かな社会を形成している。しかし「EQ」欠落の問題は余りに大きい。テクノ・リバタリアンに一人の女性もいないのにあらわされています。感性、情緒、愛情の豊かさが、デジタルでは捨象されているのではないか、真の人間らしさ、生きると言う事に意義はそこにあるのではないか。使徒パウロが「わたしに預言をする力があり、あらゆる奥義とあらゆる知識との通じていても、また山を移すほどの強い信仰があっても、もし愛なければ、わたしは無に等しい。」(コリントⅠ、13:2と告白したが、同感です。「テクノ・リバタリアン」の世界は彼らにはユートピアかもしれませんが、人類全体にとってデイストピアの様に思いますは。高度テクノロジーと経済の豊かさがすべてではない。イエスにあらわされた神の愛の豊かさのない世界は「天国」ではなく、合理的な科学技術経済功利性の支配する索漠とした「地獄」でしょう。

また、さすがに高齢になったテクノ・リバタリアン達が、「死」を怖れ、不老不死の研究に多額の富を注ぐ姿は、始皇帝が不老不死を求め、世界に使者を派遣し、エジプトのファラオが自らのミイラを作らせ、不死を願って以来、叶えられない人類の限界、エントロピー法則の帰結なのです。全ての人は死ぬのです。そして「人が一度死ぬことと、死んだ後さばきを受けることとが、人間に定まっている。」(ヘブル9:27)のです。

ただ御一人イエス・キリストだけが、十字架に死に、墓に葬られ、死に打ち勝って蘇られたのです。彼を信じる者は死んでも活きるとイエスは約束しています。永遠の命はテクノロジー進化の果てにあるのではなく、イエス・キリストにあるのですから。「わたしはよみがえりであり、命である。わたしを信じる者は、たとい死んでも活きる。」(ヨハネ11:25,26)

 

 (お断り、ブログ“バイブル・ソムリエ”は都合により、しばらく「聖書を読む集い」のHP(https://sites.google.com/view/bibleread-f)に移転しています。)

 

 

 

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