写真:韓国 国会議事堂(Wikipedia より)
西岡力
日本キリスト者オピニオンサイト -SALTY- 主筆
麗澤大学特任教授
国基研企画委員兼研究員
韓国保守の極右化を憂う
ついに国会300議席のうち100超の議席を持つ保守野党「国民の力」の代表に、尹氏弾劾に反対し不正選挙陰謀論を擁護する極右候補、張東赫(チャンドンヒョク)氏が選ばれた。
一方、与党「共に民主党」の代表には過激な左派である鄭清来(チョンチョンネ)氏が選ばれた。鄭氏は「国民の力」を尹氏による内乱に加担した非民主主義政党とし、憲法に基づき解散させるべきだと主張している。「国民の力」が極右に乗っ取られた結果、政党解散要件を自ら準備した結果になったと、常識的保守の代表である趙甲済(チョガプチェ)氏は語っている。
8月に実施された「国民の力」の代表選では4人の主要候補が激しい論争を繰り広げた。張氏と大統領候補だった金文洙(キムムンス)氏の2人が尹氏弾劾反対、不正選挙論擁護。常識的保守の趙慶泰(チョギョンテ)、安哲秀(アンチョルス)の両氏は弾劾賛成、不正選挙論否定。第1次投票の結果、なんと後者2人が脱落し、極右候補2人が決選投票に進んだ。
張氏は、戒厳令を違憲不法だと批判し弾劾に賛成した韓東勲(ハンドンフン)前党代表を裏切り者と罵(ののし)って、代表当選後に留置場にいる尹氏との面会を約束した。弾劾訴追反対という同党の方針に反する言動をする趙慶泰、安両氏や韓氏らの党からの追放を示唆し、極右に偏っている党員の支持を得て決選投票で代表に当選した。
張氏は代表に就任後、有力紙朝鮮日報とのインタビューで不正選挙陰謀論を否定せず、国民の多数が疑いを持っているとして、事前投票を廃止すべきだと強調した。不正選挙陰謀論者の全氏を義兵に例えて称賛した。義兵とは、文禄慶長の役と日韓併合前に日本軍と戦った非正規軍のことだ。
ところが、尹氏が戒厳宣布の理由に中国などの選挙介入を挙げたため、今年1月段階で国民の3割、保守派の5割が選挙不正陰謀論を受容した。陰謀論を信じ戒厳令を支持する極右勢力は大規模な街頭デモを繰り返した。その勢力の支持を得て張氏が「国民の力」代表に選ばれたのだ。
冷戦が共産主義勢力の敗北で終わった後、世界中で自民族優先主義がはびこっている。ヨーロッパ各国で極右政党が台頭し、中国、ロシア、北朝鮮ももはや共産主義国ではなく極端な自民族優先主義に基づく全体主義国に変身している。そして、ついに韓国でも極右政党が国政の中心部分に進出してきた。わが国にもさまざまな陰謀論が広がっている。韓国保守の極右化はひとごとではない。