キリスト者は共産主義あるいは共産党を支持してよいのか?(3)聖書神学的考察 原始教会とイエスの言葉を端緒として

カール・ブロッホ作「山上の垂訓」

サムネイルはカール・ブロッホ作山上の垂訓

田口望

 

 

 

田口 望
我孫子バプテスト教会牧師

題 この世のユートピアではなく、来るべき御国に生きる


Ⅰ.原始教会は「共産主義」だったのか?(使徒言行録2・4章)

まず、「原始キリスト教共産主義」と言われるときに、
よく取り上げられる聖書の場面を確認します。

「信者たちは皆一つになって、すべての物を共有にし、
財産や持ち物を売り、おのおのの必要に応じて、皆がそれを分け合った。」
(使徒言行録2:44–45)

「信じた人々の群れは心も思いも一つにし、一人として持ち物を自分のものだと言う者はなく、すべてを共有していた。」
(使徒言行録4:32)

信者の中には、一人も貧しい人がいなかった。土地や家を持っている人が皆、それを売っては代金を持ち寄り…その金は必要に応じて、おのおのに分配されたからである。」
(使徒言行録4:34–35 抜粋)

これだけ読むと、たしかに「ほら、みんなで財産をまとめて、貧しい人がいなくなってる。これは“共産主義”の理想に近いじゃないか」と言いたくなる人もいるかもしれません。でも、原始教会と共産主義の間には、決定的な違いが少なくとも三つあります。

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キリスト者は共産主義あるいは共産党を支持してよいのか?(2)歴史神学的考察 フォイエルバッハの系譜を糸口として

2004年にドイツで生誕200年を記念して発行されたフォイエルバッハの切手

※サムネイルは2004年にドイツで生誕200年を記念して発行されたフォイエルバッハの切手

田口望

 

 

田口 望
我孫子バプテスト教会牧師

1.はじめに、似た物?別物共産主義とキリスト教

ある人は

共産主義=神はいない、と考える立場

キリスト教=神を信じる立場

と分けて全くの別物だといい、共産主義に反対します。(この立場を反共主義といいます。)また、ある人は共産主義もキリスト教も平和運動をし、格差社会に反対するので、似た者同士だと共産主義を容認してしまっている人も一部にいます。(この立場を容共主義といいます。)はたしてどちらが正しいのでしょうか?
今回の論考では共産主義の思想が誕生するまでの変遷を歴史神学的、教理史学的にたどっていきます。すると

共産主義の考え方は、もともとキリスト教の考え方(神学)から生まれ、
中身だけを「神」から「人間と社会」に入れ替えていったものだ

というキリスト教の立場から見れば共産主義はキリスト教の異端なのだという流れが見えてきます。

その道筋で大事になる人たちが、ヘーゲル、ヘーゲル左派(青年ヘーゲル派)フォイエルバッハ、マルクス、エンゲルス、幸徳秋水といった人たちです。

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キリスト者は共産主義あるいは共産党を支持してよいのか?(1)組織神学的考察 カール・バルトの言説から紐解いて

※サムネイルは、ドイツでカール・バルトの生誕100年を記念して発行された彼の肖像が描かれた切手

田口望

 

 

田口 望
我孫子バプテスト教会牧師

1. はじめに

現代に生きるキリスト者が政治的立場を考えるとき、信仰と政治が全く別の問題であるとは言い切れません。信仰は人の価値観、人生観、倫理観に深く浸透し、政治的判断にも大きく影響を与えるものです。したがって、クリスチャンが特定の政治思想や政党を支持することについて考えることは、決して無意味でも場違いでもありません。

では、キリスト者は共産主義あるいは共産党を支持してよいのかという問いはどうでしょうか。この問いは単なる政治的選択を超えて、「世界観と宗教観の衝突」という深い問題を含んでいます。

 

この論考では、まず「別次元なら両立するが、同一次元では両立し得ない」という思考構造を示すため、身近な例として野球ファンと政治立場の比較から話を始めます。次にその構造を宗教に適用し、最後に、キリスト教と共産主義が本質的に衝突する理由を、20世紀最大のプロテスタント神学者カール・バルトの言説を手がかりに考察いたします。

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週の真ん中ストレート(4) 戦後も続く吉野作造の潮流 −田口望−

田口望
田口望

 

 

 

 

田口 望
大東キリストチャペル 教役者
大阪聖書学院 常勤講師
日本キリスト者オピニオンサイト -SALTY- 論説委員


●ネットでも見れる辞典でその後の吉野作造を追ってみよう

吉野作造とその影響について考えています。インターネットでも確認できる3つの事柄をインターネット辞典を引用しながら見ていきましょう。まず吉野自身について

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