「その時に備えて」に備えて(4) 悪魔の問答 -田口望

田口望
田口望

 

 

 

 

田口 望
大東キリストチャペル 教役者
大阪聖書学院 常勤講師
日本キリスト者オピニオンサイト -SALTY- 論説委員

エデンの園での問答

クリスチャンでない人もご存じででしょう。エデンの園で蛇(サタン)がエバ(イヴ)に投げかけた質問を思い出して頂きたいのです。サタンはエバに次のように尋ねました。

「あなたがたは、園のどんな木からも食べてはならない、と神は、ほんとうに言われたのですか。」(創世記3:1)

この答え、正解はイエスでしょうか?それともノーでしょうか?その答えを知るために、もともと神が人に命じた戒めはどのようなものであったかをみてみましょう。

「あなたは、園のどの木からでも思いのまま食べてよい。 しかし、善悪の知識の木からは取って食べてはならない。それを取って食べるとき、あなたは必ず死ぬ。」(創世記2:16-17)

です。つまり、蛇の質問にはイエスと答えても、ノーと答えても間違えになるような質問の構成だったのです。もっといえば、蛇(サタン)の質問は言外に、

「神があなたがた人間を、過度に束縛して『木の実の一切を食べてはならない』という過重な戒めをあなた方に強いるお方ですよね?」という方向に誤導する意図があった訳です。また、食べてはいけない物の範囲ばかりに注意をそらし、万が一戒めを破った場合どのような結末になるかという点には関心がいかないように」仕向けてやろうという意図もあったのでしょう。

以上のようにエデンの園での出来事に限らず、一般社会においても「問答」というのは回答の是非に関わらず、まず、設問の仕方が間違っていて真理にいつまでたってもいきつかないということがままあります。

ロジカルでない設問の立て方

JEAが発行した冊子「その時にそなえて」は冒頭でこそ「天皇制批判派」と「天皇制擁護派」、「無関心派」との対話を謳っているもののの、その中身は天皇制反対の方向に導こうとしているのは明らかなのです。

本来ならに天皇制のあり方について対話し、考えたいのであれば以下の4つを検討すればよいはずでしょう?(※尊皇家からすれば「天皇制」という用語すらバイアスのかかった表現であると、不快に思われるかもしれませんが、あくまで、法律論としての、憲法上の制度としての皇室を論じていることご容赦ください。)

(1)天皇制存置による信仰上のデメリット
(2)天皇制廃止による信仰上のメリット

(3)天皇制存置による信仰上のメリット
(4)天皇制廃止による信仰上のデメリット

以上の4つを検討し、(1)+(2)が(3)+(4)よりも大きい場合、天皇制の廃止を訴えればよいわけで、逆に(3)+(4)の方が大きいならば、個人の好き嫌いは別として、信仰の問題として天皇制存置を訴えなければならないのです。が、今回の冊子は、(今回の冊子に限らず、これまでも、象徴天皇制を問題でもないのに問題化したがる一部のキリスト者は)(1)と(2)ばかりを訴えるばかりで(3)+(4)を一顧だにしていません。その意味でこの冊子は信仰的でも論理的でもなんでもなく、信仰に先んじて、政治的イデオロギーをもとに「天皇制廃止」が結論としてあるのです。著者の方たちの一部にもたげているのではと考えられるのです。