キリスト者の政治との付き合い方 ~”不正選挙”にのめり込んでよいのか?~ −明石清正−

写真:By Tom Arthur from Orange, CA, United States – vote for better tape, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5131677

 

明石清正
SALTY論説委員
カルバリーチャペル・ロゴス東京 牧師
ロゴス・ミニストリー 代表

米大統領選の不正選挙のニュースが、英語、日本語問わず、私のフェイスブックのタイムラインに入ってきます。その中で、不安な思いにさせる文言が流れてきます。「クリスチャンは何も知らない」「今回の大統領選は光と闇を分ける分岐点」であるとか。

 一種の霊的エリート主義に陥っているのではないか?と感じました。つまり、「あなたは未だ、このことについて知らない」として、私たちは知っているから、この情報を得なさいと誘い、そして、その先には、ディープ・ステイト(影の国家)を粉砕する、世を救うトランプ大統領がいる、という流れです。

アメリカの教会に入り込んだ社会の分断

 キリストにあっては、人々が一つになるはずのところが、社会の分断を教会までが反映してしまっているのが、アメリカの教会です。その分断の種が、上に挙げたような、福音とは異質な種が植えられているからです。不正選挙に対する法廷闘争に加わる人と、そうでない人で分けてしまっていますから、「敵と味方」が現れて、そこに信仰的な意味づけをしてしまっているため、闘争に加わっていなければ、まだ暗闇にいるクリスチャンになり、加わっている者たちが光の中に入っていることになります。しかしその先は、キリストに従っているのでは、もはやなく、救世主、解放者はトランプ自身になっているのです。

 上の考えは、Qアノンという存在が、政治に、そして教会に浸透しているために起こっていることです。これは、ネットを主な活動場所とする、空想話に基づく陰謀論です。反グローバル主義に基づき、詳しい方によると、日本人に分かり易く「田布施システム」(注:安倍晋三首相の祖父・岸信介や大叔父・佐藤栄作の両元首相らを輩出した田布施という町が、日本を支配するという説)のようであると例えていました。最近になってオフラインでの活動もし、実際の政治の中にも入ってきました。

 今のトランプ陣営また個人で弁護している人々には、Qアノン信者や共鳴している人々がいます。不正選挙キャンペーンにおいて、例えば、Qアノンのサイトの主催者が、極右ニュースサイトからの取材を受け、それを報道したものを、トランプ大統領がツイッターでRTするなどして、一気に拡散しています。

 FBI(アメリカ連邦捜査局)は、Qアノンをテロリズムの潜在的要因という報告書を出しましたが、トランプ大統領自身は、非難することを拒みました。(ペンス副大統領は距離を置いています。)トランプ大統領は、共和党保守派によって支えられているので、その支持者であるクリスチャン的な価値観に基づいた政策も強く推進しますが、Qアノンの支持層も喜ばせることをしているように見受けられます。それで、今回の不正選挙のキャンペーン、マスコミやネットに出て来る情報は、以上、挙げたとおり、Qアノン系が紛れ込んでいるのです。

 彼らは、聖書も多用しディープ・ステイトを語るため、教会の人たちは、終末(聖書が語る終わりの時代)の反キリスト(キリストの名を語る世界的な偽りの指導者・支配者)の下にある世界政府についての預言に重ね合わせ、混同してしまいがちです。しかしQアノンの救世主はトランプ大統領です。つまり、この流れを受け入れることは、教会に、イエスをキリスト(救い主)にしない、キリストを否定する反キリストの教えを持ち込んでいると言えます(Ⅰヨハネ2:22)。(注:トランプ大統領自身は、Qアノンの信者ではなく、ましてや自分を救世主などと思っておらず、ただ利用しているだけです。)

政治がキリスト者の熱心さを呑み込む歴史

 キリスト教会が、政治に過度にのめりこむと、政治にのまれてしまいます。かつて、十字軍に教会が深く関わり、反共のヒトラーに賛辞をキリスト者が送ったのは、義憤に駆られて不正に戦おうとして、その義憤を当時の政治権力者が利用したからに他なりません。同じ過ちを繰り返してしまうおそれがあります。

 これを反対に考えてみたらいかがでしょうか?

 黒人差別撤廃運動として、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)が興されました。けれども、その主催者は自分が共産主義者であることを公言してはばからず、同意しない人たちを敵視し、攻撃する、分裂の要素を多分に持っています。人種間の和解とは裏腹に、さらに複雑な分断をもたらしています。しかし教会の中で、人種差別との戦いは神からのものだからとして、BLMに関わることも御心だとする人々もいます。しかし、そのことによって、社会の分断や混乱を教会の中に持ち込んでしまうのです。その同じことを、Qアノンにおいても行ってしまっているということです。

 米国福音派の教会指導者は、BLMに対しても(記事)、Qアノンに対しても、それが教会に入り込むことに対して、聖書からの警鐘を鳴らしています(記事)。南部バプテスト神学校の学長アルバート・モーラー氏は、Qアノンをグノーシス主義になぞらえています。右と左、共に逸脱があるのです。

 ちなみに、私はトランプ政権の政策の多くが、高く評価できるものだと思っています。私が米国市民なら、間違いなくトランプ大統領に投票していたことでしょう。発信される政策には、キリスト教的なものが多いです。そして、不正選挙を裁判に訴えることも大統領の権利であり、郵便投票やコンピューター集計に大きく依存する制度も、意図的かどうかに関わらず杜撰(ずさん)になることは目に見えていて(例:ジョージア州では再集計で約6千票がミス)、コロナを理由に郵便投票を推した民主党は汚いとまで思っています。

 しかしそれでも、不正選挙に対する法廷闘争には、キリスト教会にとっては異端的な要素が紛れ込んでいるため、一定の距離を置かないと、自分自身が分裂の要素になってしまうと自戒しています。

いつの間にか植え付けられた攻撃性

 以下の記事は、本当に起こったことです。トランプ陣営の弁護人である ジョセフ・ディジェノバ(Joseph DiGenova) 氏が、トランプ大統領によって最近、解雇されたサイバーセキュリティ―の高官(記事)のことを、「こいつは最高の馬鹿だ。水に溺れさせ、四つ裂きにし、夜明け前に始末し、銃殺されるべきだな。」と、ニューズマックス(Newsmax)というニュースサイトで話しました。

Have We Completely Lost Our Minds and Our Souls?

 この高官、クリス・クレブスさんは、「選挙に不正はなかった、最も不正から守られた選挙であった。」として、解雇を覚悟してトランプ大統領の主張と正反対のことをウェブサイトに挙げていました。ジョセフ・ディジェノバ弁護士は、裁判で不正を暴くために雇われていますから、彼に怒りを抱くのは仕方がないですが、殺害を公言するとは、ほとんど犯罪に近いのではないでしょうか?(事実、ジョージア州の州幹部の方々が殺人の予告など受けたり、恐怖を味わっているそうです。)

 ディジェノバ氏 は、Qアノン信者であるか分かりませんが、陰謀論をこよなく愛する人で、上に説明したように、敵と味方を分けて、敵に対しては容赦ない攻撃的姿勢を見せたのです。

 恐ろしいことは、ここに終わりません。このことをマイケル・ブラウンという聖書教師、弁証者が、強く非難したのです。すると、なんと、この弁護人の発言を擁護するコメントが、自称キリスト者たちから寄せられたというのです!これが、福音とは異質な流れを一度、受け入れてしまうことによる恐ろしさなのです。義憤が強まればそれだけ、そうした流れに乗らない人々、異論を言う人々を排斥し、攻撃的になってしまいます。

人の怒りは神の義を実現しないのです。」(ヤコブ1章20節)

 神のみが正しい方です。神のみが正しく裁くことができます。主に怒りを任せて、イエス様が選挙の成り行きも支配しておられることを信じていきたいです。