バイブル・ソムリエ:亀井俊博
「芦屋福音教会」名誉牧師
「聖書を読む集い」牧師
『生涯現役が贈る人生の道標』のお勧め
2025年4月23日
生涯現役の個人史
85才で現役バリバリの経営学者、島田恒先生が集大成と言える新著「生涯現役が贈る人生の道標」(企業・コンサル・大学・NPOの現場を生きた85歳、キリスト新聞社)を出された。その出版記念講演会にご招待の上、御著作を恵贈頂き拝読しました。
半世紀近くお近づきを得ている者として、ビジネス、教育、NPO、教職等、先生の人柄と業績を慕う方々の集う大盛会のご講演と相まって、半世紀にわたる先生のキリスト者経営学者としての業績・提言を是非、ビジネスに生きる福音派の皆様にもご紹介したく筆を執ります。
島田恒先生は1939年、兵庫県に生まれ、幼少期は第二次大戦末期で、“空襲警報発令!”のラジオ放送に続く、B29爆撃、ご自宅への焼夷弾投下と言う恐怖に怯える時代を体験。以後、戦争だけは絶対避けなければ、との実感を持ち続けられる。成長し神戸大学経済学部で学ばれる中、「人間とは何か」「社会とは何か」「人間はーそして自分はーいかに生きるべきか」「社会はどうあるべきか」と言う、本書を貫く実存的問いに直面、キルケゴールを読み、友人の誘いで教会の門を叩き、信仰告白、受洗なさりキリスト者となった(現在、日本キリスト教団芦屋西教会会員)。
卒業後、(株)クラレに入社、折からの高度成長の波に乗り営業部門で高い業績を挙げ、若くして営業部長に抜擢される。その間広めた仲間たちとの交流を通じ、業種を問わず企業経営に共通の成功原則があると強く思われ、それを「日本的経営の再出発」(同友館)として世に問うた。幸いにも好評を得、これを機に期すところあって50歳で惜しまれつつ退社、コンサルタントを志し、多くの企業の経営相談や幹部研修に活躍。
さらに龍谷大学の経営学部の責任者になった恩師同僚より、是非にと乞われ経営学者の道も同時に歩まれるようになった。さらに P.F.ドラッカーの下で「非営利組織の」研鑽を積まれ、まさに理論と実践両輪で実績を上げ、「非営利組織の研究―その本質と管理」と言う学会新分野初の経営学博士授与として結実なさった。現在もまさに生涯現役で神様からのミッションとして、非営利団体の経営にお仕えくださっています。
島田経営学
島田経営学は、社会を「経済」(合理・効率の原則:企業の基本的原則)、「政治」(平等・安全の原則:一律公平、法律による行政)、「文化」(理想実現の原則、芸術等一般文化や社会、人間のあり方を問う価値観)、「共同」(共生と絆の原則:人間、社会の「つながり」)、の4つのセクター(領域)のバランス良い発展を説く。
しかし高度成長期に、先生の言葉で“あまりにも経済”と言う偏りが生じ、経済突出社会モデルと言うゆがみが生じた。その結果のバブル崩壊、失われた30年の長期経済停滞の後、現在の格差問題、いじめ、ハラスメント、企業倫理問題・・まさに、営利第一の経済最優先の日本社会が生み出した宿痾だと診断なさる。この点を早くから見抜いた P・ドラッカーは「非営利組織」に着目、これに学んだ島田経営学も、
①利潤目的でなくNPO (Non Profit Organization)、公益に適う独自のミッション(使命、価値観)を持つ。
②民間の働き(NGO(Non Governmental Organization)、と言う利他的なミッションを特色とする「非営利組織」の重要性
を説くようになった。
そして島田先生自身、JOCS、淀川キリスト教病院、オリブ山病院、YMCA、神戸バイブル・ハウス・・の役員として非営利法人の経営の現場に汗をかき貢献なさってきた。それが「NPOと言う生き方」(PHP新書)と言う著作に結実し、ビジネス世界に生きる者にとって、真の人間性回復の生き方の指針を示されました。
さらに、関西学院大学神学部講師としての経験から、キリスト教会そのものあり方に経営的視点取り入れた「教会のマネジメント」(キリスト新聞)を著され、筆者の様な牧師にも貴重なヒントを提供頂きありがたく思っています。
日本社会のビジョンを描く
本書の構成では、第1章、「人生二毛作―著者の自分史から」で、先生の歩まれた経営学研究の成果と、実践の裏付けのある説得力ある論が展開されています。第2章で「私たちは今どこにいるのか」で経済と政治、第3章で「ホントウの豊かさを求めて」で文化と共同、そして人生、の結語で社会の4つのセクターそれぞれの政策科学と言うか、85才の先生の日本社会への愛から、政治、経済、文化、共同への、ご自身の深い反省も含めた、辛口の警告と共に、キリスト教信仰からにじみ出る希望の提言がなされています。生命ある限り全ての人が「現役」として人生を生きるべく、非営利組織の説明に重ね合わせてメッセージを贈られています。
社会の現状認識や、病状診断は的確でも、処方となると空疎な学者の論が多いですが、本書の描く日本と世界の構想は実に堅実でしかも希望が持てます。是非、福音派の現役ビジネス・パーソン、さらにリタイヤー後の人生100年時代の指針を求める方々、NPOの現場で活動なさる方々、教職方にお読みいただきたいとお勧めするものです。
ーーー