中川晴久
東京キリスト教神学研究所幹事
主の羊クリスチャン教会牧師
日本キリスト者オピニオンサイトSALTY 論説委員
<はじめに>
日本に生まれ育ち、今日、日本という国に生きているのであれば、自国の総理大臣について、少しでも深く知っておくことは、あってしかるべきでしょう。
2012年2月より第2次安倍政権が発足して以来、第4次安倍政権に至る長期政権となりました。現在、国内問題のみならず近隣諸国、とくに朝鮮半島情勢はひっ迫していることからも、日本における力強いリーダーとして内外からも期待されています。
もちろん安倍政権に反対の意見もあります。特にキリスト教界では、比較的大きな教団の理事会や超教派での牧師会などが、アンチ安倍としての声明をつぎつぎに発表し、キリスト系の新聞がそれを積極的にとり上げて情報を流しているのを目にします。
クリスチャンには政治的にさまざまな意見があるのだし、安倍政権を応援しているクリスチャンもかなりの数でいるはずです。しかし、信頼している牧師や指導者層がこのような状況であっては、容易に安倍政権を支持する発言などできないでしょう。まして礼拝で語られるメッセージでアンチ安倍を語られて着色された眼鏡で見ることに慣らされれば、安倍晋三という人物をなかなか公正に理解しずらいのではないかと思います。
そこで、私が教父神学を学ぶ際の手法を用いることにしました。思うに、ある人間を理解するのに最も良いと思える方法は、その人の「育ちや経験」を知ることだし、またその人の中でまだ形となっていない「素朴な信条」や「単純な理念」などの吐露されいる言葉を拾うことです。それらは、時あるとき具体化されて、一つ一つの行動になって現れてくるでしょう。そのようにして見てみると、安倍晋三という人物は実に分かりやすい人だと思えるのです。
道半ばで頓挫した第一次安倍政権の発足時、2006年7月に安倍晋三著『美しい国へ』が出版されました。これは安倍総理が書いた初めての本です。この中には、安倍晋三氏の「育ちや経験」「素朴な信条」「単純な理念」などを比較的多く見つけることができます。ですから、この本から多く参考引用しつつ、安倍晋三という総理(以下、安倍総理)を紹介していくことになります。
<郷土が生み出した精神>
「政治家は自らの目標を達成させるためには、淡泊であってはならない。」
これは、安倍総理が父親の安倍晋太郎氏の生き方から学んだ大事な教訓です。そのために、自らを「闘う政治家」として位置づけました。
「わたしが政治家を志したのは、ほかでもない、わたしがこうありたいと願う国をつくるためにこの道を選んだのだ。政治家は実現したいと思う政策と実力がすべてである。」
この発言は、郷土の長州が生んだ吉田松陰が好んで使った孟子の言葉
「自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば千万人といえども吾(われ)ゆかん」
の精神に裏打ちされています。これは、熟慮した末に間違いないと考えたら、断固進むという気概を表しているものです。安倍総理の強さは、郷土長州が生み出したスピリットにあるのかもしれません。
「わたしが政治家を志したのは、ほかでもない、わたしがこうありたいと願う国をつくるためにこの道を選んだのだ。」というのであれば、まず安倍総理が何を実現したいと思っているか、「わたしがこうありたいと願う国」とは何であるのかを知るのが一番です。その上で「政治家は実現したいと思う政策と実力がすべてである。」というのであれば、具体化されて打ち出してくる政策を見て、方向性とその力量、つまりベクトルを知ればいいということになります。
ただ、安倍政権が扱う政策は多岐に及びます。だからこそまず枝葉の政策を見るより、その幹になっているもの、安倍晋三という総理のバックグランドになっている「育ちや経験」および「素朴な信条」「単純な理念」が吐露されている言葉を拾うのがいいのです。