中国キリスト教の躍進に学ぶ(1)−亀井俊博−

・写真:ネコヤナギの花

 

 

 

バイブル・ソムリエ:亀井俊博

「西宮北口聖書集会」牧師
「芦屋福音教会」名誉牧師

 

「中国キリスト教の躍進に学ぶ」(第1回)

<第1回>
・3回の連載で掲載いたします。(SALTY編集部)

(A)中国キリスト教の躍進に学ぶ

 “戦前の中国のキリスト教徒は、ライス・クリスチャンと呼ばれ、宣教師がお米をくれるから教会に来ていた。だから今は無神論の共産党支配になってしまい、教会は消滅したと思う”、わたしが半世紀も前に戦前の中国の教会を知る先輩牧師からお聞きした話です。

 しかしこの予測は見事に裏切られました。2025年、中国キリスト者数は1億6千万人を数え、2030年には2億4・7千万人に成長し、アメリカを抜き世界一のキリスト教人口になると予測されると言う(Fenggang Yang、米国バーデユ大学教授)。

 そこで危機感を抱いた中国政府は、強力な規制をキリスト教にかけていると言う。わたしはこの奇跡的な現象に関心を抱き、さらには省みて日本のキリスト教不振に比べて、中国キリスト教から学ぶべき事がないか、牧師として切実な思いを持っていました。

 わたしと中国との具体的関りは、駆け出し牧師時代、神戸大学の中国人留学生と交流、支援をし、親しくなったカップルの学生結婚の司式と披露パーテイを教会でしました。後日、中国人留学生を監視する神戸の組織から「ブルジョアの町、芦屋市で、ブルジョア宗教キリスト教で結婚式をするとは、けしからん。」と言うことでこのカップルが睨まれた、ということを聞きました。
いまではそんなことはないとは思いますが、懐かしい思い出です。

 中国には4回訪れ広大な国土と歴史の厚さに感銘を受けました。もっとも最初の訪中時、ビザ申請で職業欄に牧師と記入、しばらくすると本当にレッド・カードが送られて、伝道活動をしない誓約書に署名を求められびっくりした事を思い出します。

 その後、福音派キリスト教オンライン新聞 “クリスチャン・トゥデイ” 等で、近年の中国キリスト教への断片的な情報は持っていましたが、最近中国研究の知人の学者から、特定の思想的バイアスのかからない大学等の研究者による客観的データに基づく貴重な資料を頂き、中国建国以来半世紀余の中国キリスト教の歴史を知ることが出来、概観をつかめたように思いここに略述し、関心ある方々にご紹介いたします。

(B)中華人民共和国以後のキリスト教の歩み

(a)建国時代

 1949年に、中華人民共和国が誕生し憲法を布告、第36条に「宗教信仰の自由」が保障されていました。しかしそれは政府の判断する「正常な宗教活動に限られる」との条件下であり、さらに政府は共産党の支配下で、共産党の党是の一つは「共産党は無神論であり、無神論をたゆまず宣伝しなければならない」ですので、根本的に宗教はアヘン、と言う認識です。マルクスの史的唯物論の帰結である無神論に立つ、共産主義政権下の宗教は本来ありえなのですが、現実に存在しており、宗教とりわけキリスト教の存在はそれ自身矛盾した興味深い研究対象ですが、ここでは論じません。

 既にキリスト教教義学の拙著 “「まれびとイエスの神」講話 ” の中で、「宗教批判と脱構築」の項目を設け、現代の様々な宗教批判を取り上げ、史的唯物論の宗教批判と福音派キリスト教による脱構築も論じています。共産主義社会下のキリスト教の可能性を論じていますので、参照ください。

 ただ周恩来首相は、「宗教五性論」と言う宗教の①群集性、②民族性、③国際性、④長期性、⑤複雑性、と言う機能を評価し、政府の社会維持統一政策に利用しようと許容していました。そして「中国共産党中央統一戦線工作部」下、政府公認宗教として、仏教(中国仏教会、1953)、道教(中国道教協会、1957)、プロテスタント(中国基督教三自愛国運動委員会、1954)、カソリック(中国天主教愛国会、1957)、イスラム教(中国イスラーム協会、1953)と言う「愛国宗教団体」を設立、中国共産党管理下の「五大公認宗教」が承認され、非公認宗教は取り締まりの対象とされました。

 建国当時、仏教、道教、民間宗教は2億人でした。キリスト教徒数はプロテスタント70万人、カソリック300万人でした。中でもキリスト教信徒は19世紀半ば以来の欧米伝道団(ミッション)の熱心な宣教の実でした。建国時、キリスト教は「欧米帝国主義支配の手先」と批判され、1951年、全てのミッションは強制的に国外退去。日本にも多くの元チャイナ・ミッションが避難、定着し戦後の日本宣教に貢献したのです。

(b)文化大革命時代

 しかし1966~76年、毛沢東の文化大革命により、原理主義的・狂信的共産主義が強制され、宗教は排斥、多くの教職が迫害、投獄され、宗教施設が破壊されました。しかし、不思議な事にその間にキリスト教徒は増大したのです。まさにテルトリアヌスの言う通り、“殉教者の血は教会の種”となったのです。

 なぜ信徒が増大したかと言うと、建国以来の社会主義の基本単位だった人民公社が存在・機能していた時代は、いわゆる“裸足の医者”に代表される医療が人民公社から提供されていましたが、文革で人民公社が機能せず、地方農民は医療を受けられず、藁をもすがる思いで集った政府非公認の地下教会(家の教会)でのカリスマ的治癒祈祷が盛んになったからだと言われます。ですから当時のキリスト教はシャーマニズム的で教義的にはおかしいものもあったようです。ちなみに気功集団 “法輪功” も治癒を主に行い、政府公認の仏教に加入が認められず、非公認宗教として弾圧されています。

 さらに激しい文革運動により社会は破壊され、教育も下放政策により、学生は農村に送られ教育の機会を奪われ、アルファベットも一次方程式も知らない大学生世代が生まれました。困った事に、彼ら文革世代が現代中国の指導層になり、後述の改革開放政策を捨て毛沢東回帰を計り第2の文革を考え、世界的な問題を引き起こしています。

 

く続く:第2回 へ>

・執筆:2021・2・18

ーーーーーーーーーーーーーー

亀井俊博(かめい としひろ)

1942年香川県に生まれる
単立「西宮北口聖書集会」牧師、「芦屋福音教会」名誉牧師
同志社大学法学部法律学科卒、日本UPC聖書学院卒
(同志社大学神学部、神戸改革派神学校、神戸ルーテル神学校聴講)
元「私立報徳学園」教師、元モンテッソーリ幼児教室「芦屋こどもの家」園長
元「近畿福音放送伝道協力会」副実行委員長、

*<亀井俊博牧師のブログ>
「西宮ブログ」の『バイブルソムリエ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

● 亀井俊博牧師の著書(電子書籍)を以下にご紹介します。
・「電子書籍」制作・出版  ”Piyo ePub Communications”

☆ Amazon Kindle ストア(亀井俊博 著)
「アルファ新書シリーズ」全7冊 <電子書籍版・POD版>
https://amzn.to/2FrzSsA

(7)「カイザルと神」ナラティブ社会神学試論

(5)まれびとイエスの神」講話(人称関係の神学物語)

(6)「時のしるし」バイブル・ソムリエ時評

(3)「モダニテイー(上巻):近代科学とキリスト教」講話

(4)「モダニテイー(下巻):近代民主主義、近代資本主義とキリスト教」講話

(2)「人生の味わいフルコース」キリスト教入門エッセイ

(1)「1デナリと5タラントの物語」説教集

『人生の味わいフルコース』
内容:お料理の味付け、甘辛酸苦旨の五味を人生論風にバイブルから説き明かしたキリスト教入門書。

● 『1デナリと5タラントの物語』
亀井俊博牧師による、わかりやすく、また、心を癒す聖書のメッセージです。
現代社会の課題の一つ、「二極格差」の只中に生きる私たちに、慰めと希望、生きる力を与える、「必読の一冊」!

●「電子書籍」5社より販売中
「亀井俊博」で検索ください。

Amazon Kindle ストア

楽天ブックス(kobo

Google Play ブックス

Apple iBooks Store

BookWalker

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ・写真:ネコヤナギの花
能勢川バイブルキャンプ (撮影・Shinichi Igusa)