中国キリスト教の躍進に学ぶ(2)−亀井俊博−

 

 

 

バイブル・ソムリエ:亀井俊博

「西宮北口聖書集会」牧師
「芦屋福音教会」名誉牧師

 

「中国キリスト教の躍進に学ぶ」(第2回)

<第2回>
・3回の連載で掲載いたします。(SALTY編集部)

<第1回>より    <—– クリック!

(c)改革開放時代

 1990年代、文化革命による、社会の破壊と荒廃から再建するため、1989年の天安門事件を経て、鄧小平が“改革開放”を唱え、政治の共産党支配、経済の資本主義市場導入を計りました。その結果、欧米との国際交流が盛んとなり、1990年以降宗教ブームが生じ、キリスト教会も中国駐在のビジネスマン、外交官、学生等のキリスト者の礼拝のため、北京、上海に「国際教会」(International Christian Fellowship,ICF) を認可、ホテル礼拝、やがて会堂が建てられ、パスポートを提示し外国人信徒の礼拝が認められました。これは共産党政府下の「特区」としての市場開放、宗教開放策でした。しかし中国人への伝道は禁止され、中国人キリスト者との交流も認められませんでした。

 さらに政府の指導による中国人向けの公認教会を「三自愛教会」として、法的承認と規制の下で礼拝が認められました。三自愛とは、①自養、②自治、③自伝で愛国的教会であると言う事です。つまり外国勢力の干渉、浸透を嫌う共産党政府は、キリスト教の国際性を排除、共産党支配に従う宗教として公認教会を認めたのです。

 さらに先進国の科学技術導入のため、100万人以上の留学生が主に欧米に派遣され、帰国して経済復興に貢献。2008年北京オリンピック以降、特にイギリス・アメリカへの留学生の約半数がキリスト教徒となって毎年10万人規模で帰国、彼らを「海帰」(リーターニー)と呼び、上海、北京でオフィスやホテルで自主的に礼拝や、聖書研究会を立ち上げ、また学生伝道団体キャンパス・クルセードの活動も盛んになり、非公認の新たな形の「家の教会」は爆発的に成長。
彼らは社会のエリート層で、宗教規制の当局も無視できなかったのです。彼らは開放以来の急速な都市化によって出現した、出稼ぎ農民、知識人、専門職、学生からなる「都市新興教会」と言う、地下教会を形成。「維権運動」(権利侵害に遭う運動)を展開し大躍進、信仰と民主化を共産党から取り締まられながら実践、それを信仰的に互いに分かち合い、権力による抑圧を神から受けた試練であり、神の祝福と受け止める「苦難神学」を形成、キリスト教の愛と寛容による中国民主主義の定着に寄与したのです。

 この時代の中国の教会は、主に外国人信徒の「国際教会」、政府公認の中国人教会「三自愛教会」、非公認の地下教会「家の教会」に分類できます。

 さらに浙江(せっこう)省、特に温州(おんしゅう)市は、元々貧農の多かった地域ですが、改革開放により海外との商業取引、華僑の出身地となり、海外との交流でキリスト者となった企業経営者等の新興富裕商人が熱心に教会を支援、彼らを「ラオパン信徒」(老間基督教徒)と言います。温州市は人口100万の15%が信徒となり、「中国のエルサレム」と呼ばれます。彼らの教会の熱心さが同時に経済発展につながり、当局がキリスト教を推進するほどになっていました。中国キリスト教発展の原動力は、長江以南は「ラオパン信徒」の伝道により、以北は韓国系信徒の伝道によると言われるほどです。

 かくしてキリスト教は大躍進し、その信仰も文革時代の病気治癒から福音主義神学に洗練され、リベラル神学は少数です。「三自愛」公認教会には公認の神学校も設立され教職が養成され、その卒業生は地下教会の教職にもなっています。そしてヤング教授は2025年頃に、中国キリスト者信徒は1億6千万人を超え、2030年には2億4・7千万人を超えると予測するまで成長したのです。

 この時代の入信動機は「信仰危機」と定義されます。この概念は、ソ連、東欧諸国の共産圏が崩壊した際、共産主義イデオロギーが排除され、その際、道徳的・精神的真空の危機が生じ、その不安に伴う宗教的関心から、オウム真理教の様なカルト宗教や土俗宗教が蔓延する中、否定されたキリスト教が復活した現象、これを「ポスト社会主義」から生じた「信仰危機」と呼びます。この概念を中国キリスト教発展に援用したものです。ただ中国では文革時代、毛沢東の神格化、個人崇拝信仰の対象、「神創り運動」がありました。それが改革開放により、世界に目が開かれ毛沢東の相対化、さらに否定にまで及ぶ共産主義信仰の危機と言う意味がありました。

 そう言う文革失敗、改革開放による激しい社会的変化がもたらす精神的、霊的危機に際し、賛美や聖書研究による礼拝、信徒相互の交わり援助、愛の共同体は民衆の得難い拠り所となったようです。信徒が増える中、礼拝堂建設が各地で進みましたが、当局の建築規制は厳しく、教会堂建設が進まない中、家庭集会や、事務所、ホテル等の家の教会が無数に生まれたもので、特に反体制の地下教会とは言えない様です。

(d)現代、習近平政権時代

(1)習近平政権とキリスト教

 2013年習近平政権が成立、彼は中国伝統宗教の仏教に親しみ、西洋思想のキリスト教を嫌う人物です。2014年習近平の同志、黄宝龍が江西省書記に赴任。「中国のエルサレム」と呼ばれた省都温州市の教会を弾圧し始め、6000名収容できる建設中の三江教会堂の十字架を降ろさせ、信徒3千人が座り込み抗議する中、武装警察が突入、会堂を強制的に取り壊し、さらに2016年まで1500の大小教会堂の十字架を強制的に撤去させ、さらに会堂破壊までしました。信徒は果敢に抵抗し、牧師や信徒の人権派弁護士は投獄、消息不明になり、欧米諸国から非難されました。

(2)習近平政権の宗教政策

 習近平政権は、改革開放政策から逆コース化、毛沢東思想の第2の文革を目指しているようです。その宗教政策は「宗教の中国化」です。これは宣教学の言う「土着化論」ではなく、中国共産党の指示に従う宗教は容認し、そうでないものは弾圧すると言う政策です。また「宗教的手段による外国文化の侵食を阻止する」と言う名目で「宗教事務条例」(通称、宗教法)を大幅に改定、特にプロテスタントは、欧米列強の侵略に加担する宗教として警戒し、キリスト教の「中国化」、「神学の愛国化」が求められています。しかし宗教法の適用は地方政府の裁量に委ねられており、キリスト教の盛んな地域では緩いようです。

(3)世界覇権のチャイナ・ドリーム

 経済的に大発展し、軍事的にも強化した中国は、「中国の夢」を描き世界覇権を目指しています。陸のシルクロード“一帯一路”、海のシルクロード南、東シナ海の占領、世界の金融支配“AIIB”、“デジタル人民元“、ITによる国民管理”デジタル・レーニン主義“、中華思想普及の”孔子学院“等、経済力・軍事力を背景に着々と世界覇権戦略を進めています。

(4)次代への期待

 その中で、普遍宗教キリスト教、イスラム教は中国政府の警戒下にあります。イスラム教は辺境少数民族でありテロを警戒し弾圧し、ジェノサイドとして国際社会の非難にあっています。しかしキリスト教は、海外との交流の盛んなエリ-ト層に浸透し中国社会発展の大きな活力になっており、無視できずさりとて勢力増大は共産党の警戒するところであり、ヤング教授の予測達成は不透明です。
今後は蛇の様に賢く、鳩の様に素直な、対応が教会に求められているようです。しかし毛沢東思想下で育った文革世代の現指導部チャイナ・セブンがやがて世代交代する時が来ます。それは鄧小平影響下の改革開放世代、さらにはキリスト教影響下の指導層の登場です。わたしは次代に期待しています。

(5)「楕円思考」的世界観を

 さらに21世紀の世界政治の課題の一つが、米中対立があります。新冷戦からホットな戦争まで危惧されます。日本も尖閣問題を抱え、さらに台湾問題がその先にあり、まさに米中対立の最前線です。そう言う危機の中、わたしは先に “米中対立の向うに” 論文をSALTY誌上に問い、二人のキリスト者、内村鑑三、大平正芳の“楕円思考”こそ、一極覇権の“円思考的”世界支配構造(「世界システム論」I.ウオーラステイン)から、米中二焦点によるサーバント・リーダーシップによる世界の課題奉仕への大転換こそ、21世紀に求められる世界観だと説きました。そしてそれは絵空事ではなく、米中に盛んなキリスト教の躍進に両者の強い絆があることを論じました。

 今回の ”中国キリスト教の躍進に学ぶ“ は、その歴史的エビデンスを紹介するものになったと思います。

 

く続く:第3回 (最終回)へ> 

・執筆:2021・2・18

ーーーーーーーーーーーーーー

亀井俊博(かめい としひろ)

1942年香川県に生まれる
単立「西宮北口聖書集会」牧師、「芦屋福音教会」名誉牧師
同志社大学法学部法律学科卒、日本UPC聖書学院卒
(同志社大学神学部、神戸改革派神学校、神戸ルーテル神学校聴講)
元「私立報徳学園」教師、元モンテッソーリ幼児教室「芦屋こどもの家」園長
元「近畿福音放送伝道協力会」副実行委員長、

*<亀井俊博牧師のブログ>
「西宮ブログ」の『バイブルソムリエ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

● 亀井俊博牧師の著書(電子書籍)を以下にご紹介します。
・「電子書籍」制作・出版  ”Piyo ePub Communications”

☆ Amazon Kindle ストア(亀井俊博 著)
「アルファ新書シリーズ」全7冊 <電子書籍版・POD版>
https://amzn.to/2FrzSsA

(7)「カイザルと神」ナラティブ社会神学試論

(5)まれびとイエスの神」講話(人称関係の神学物語)

(6)「時のしるし」バイブル・ソムリエ時評

(3)「モダニテイー(上巻):近代科学とキリスト教」講話

(4)「モダニテイー(下巻):近代民主主義、近代資本主義とキリスト教」講話

(2)「人生の味わいフルコース」キリスト教入門エッセイ

(1)「1デナリと5タラントの物語」説教集

『人生の味わいフルコース』
内容:お料理の味付け、甘辛酸苦旨の五味を人生論風にバイブルから説き明かしたキリスト教入門書。

● 『1デナリと5タラントの物語』
亀井俊博牧師による、わかりやすく、また、心を癒す聖書のメッセージです。
現代社会の課題の一つ、「二極格差」の只中に生きる私たちに、慰めと希望、生きる力を与える、「必読の一冊」!

●「電子書籍」5社より販売中
「亀井俊博」で検索ください。

Amazon Kindle ストア

楽天ブックス(kobo

Google Play ブックス

Apple iBooks Store

BookWalker

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー