【寄稿】第1回「反日」とは何か?−中道平太−

中道 平太
 ・ 日本同盟基督教団の信徒
 ・ 関西在住

 

第0回 より

こんにちは。前回、『「反日」とは何か?』という表題が生まれた背景について、お話しました。今回からは実際に「反日」という語句の定義について考えていきます。

 そのためには、言語学の立場から「言葉の定義は変遷する」「文脈から外れた解釈は用例として不適当」という前提を持った上で話を進めていきます。

 まず、「言葉の定義はいつ誰が与えるのか」ということから考えていきます。多くの人が異論を唱えないと思いますが、言葉の定義は流動的で過去には誤用とされてきた解釈がそのまま使われ続けた結果、誤用ではなく用例の一部として認められるようになる場合もあります。ここで述べられる「認められる」というのは、統計的に根拠が示されるか辞書に用例として登録されるかのいずれかをもって広く一般的に認知された用例であると判断することにします。

 たとえば、語句の意味の変遷としては前例として不適当ですが、「ら抜き言葉」が誤用であるかどうかについて、文化庁が1915年の調査報告では正しい日本語として認めないとしていたのに対して2015年の調査報告では認めてもいいのではないかという表現に変えられています。これは国立国語研究所が行った統計調査が元になっていて、年代別に見た国民の60%以上が「ら抜き言葉」を常用している状態が上昇傾向にあることを根拠にしているようです。

 したがって、反日という語句の成り立ちと用例の歴史を紐解くことは、反日という語句が持つ意味の定義について考えるときに必要不可欠な手順です。

 反日という語句は、韓国の政治家が自らの政治的理念を明らかにするために使い始めたという説があります。私は韓国語話者ではないので、この説の真偽について出典を探すことはできませんでしたが、代わりにコーパスを用いて「誰がいつからどういう文脈で使い始めたのか」を調べていくことにします。コーパスとは言語の使用例を集めたもので、国立国語研究所が作成してネットで公開している「少納言」というシステムは、対象としたい語句がどの文献でいつ登場したのかを検索できます。現在公開されている現代用語のコーパスでは、反日という語句の初出が1970年代となっており、これは日本国語大辞典が示す用例の出典と一致します。

 日本国語大辞典には、「日本に悪意や反感を持つこと。日本に反対すること」とあり、用例として「名目は、反日分子を洗い出す、ということだったのです(“地を潤すもの” 1976, 曽野綾子)」と引用されています。

これだけでは用例の用法が不明確なので、他の辞書を見ていきます。Wikipediaでは、「韓国、中国の主張に賛同する日本人を反日」と書いてあり、国会議員が偽証したり公務員が隠蔽したりする国内の背反行為に関する用例については書かれていないため、辞書的意味では「(韓国・中国の主張に則って)日本に悪意や反感を持つこと」という定義が見えてきます。

 続く第2回では、言及的意味について考えていきます。言及的意味とは、文脈の中で特定の対象について用いられるときに語句が持つ意味のことです。

 辞書的意味においては、「国会議員が偽証したり、公務員が公文書の隠蔽をするのも反日だ。」という用例は確認できませんでした。

 しかしながら「◯◯という意味もある」と主張する人々にとって「辞書に載ってないから、そんな意味はない」という反論は通用しません。辞書に載ってない意味であっても、使われ続けることによって言葉の意味は変わっていくからです。

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