<論評>統一協会問題:月刊『Hanada』7月号 福田ますみ『全国弁連のでっちあげ』‐中川晴久‐

 

 

中川晴久
東京キリスト教神学研究所幹事
日本キリスト神学院院長
SALTY-論説委員

 

< はじめに >

月刊『Hanada』7月号に、ノンフィクション作家の福田ますみ氏の記事『被害者でっちあげ全国弁連の手口』が掲載されました。福田氏は、世界平和統一家庭連合(以下「統一協会」)の問題を扱うジャーナリストとして唯一核心部分をついてくれる人物なので、私も注目しています。
統一協会はキリスト教の「異端」ですから、当然キリスト者の方々は何らかでその被害報告を受けたり、脱会者と接する機会もあったりで、嫌悪感を抱く人がほとんどでしょう。その意味でも憎しみが膨らみやすくなるはずです。それを理解したうえで、繰り返し注意しなければならないのは、今起こっている事態を冷静に見て分析する必要もあるということです。そのためには、別の角度からの理解も重要です。福田氏の記事は統一協会側に寄り過ぎているきらいがあるのですが、本来見なければならない視点を持っています。
以下、福田ますみ氏による多くの問題提起を私なりに紹介したいと思います。
詳しくはぜひ『Hanada』7月号の購読をお願いします。

< 霊感商法被害の激減という現実 >

福田氏が提起しているのは、「2017年の前年、2016年から現在まで7年間、新たに信者から受領した献金を巡る訴訟は1件も提起されておらず、霊感商法の被害も激減している」という事実です。これで統一協会に対する宗教法人解散請求をするというのは、さすがに無理があります。しかし世論はその方向で煽られています。実態はどうでしょうか。
確かに、安倍元総理銃撃事件で統一協会問題が騒がれる直前まで、福田氏が語るように統一協会に関する霊感商法被害の相談件数は激減しています。 

 参照データ:消費者庁(令和4年9月30日報告)

私はこれをもって、「統一協会のカルト性は薄まった」と表現しています。2009年の統一協会の「コンプライアンス宣言」以降は、霊感商法は激減し改善されているのです。2021年にあっては消費者庁への相談件数1441件の内、統一協会のものは27件のみと報告されています。統一協会にあっては正体隠しでの勧誘を止めている現在、「カルト」と診断するための「カルト性」が大きく削がれているのです。

< 「カルト」診断における「カルト性」について >

今日「カルト」の概念は、宗教学的に熱狂的な組織というだけではなく、社会学的な意味での「破壊的」「反社会的」という意味を含みます。キリスト教を基礎的宗教としている欧米では宗教学的な「異端」組織や熱狂的な新「宗教」に対して「セクト」「カルト」という表現が用いられてきました。しかしキリスト教が基礎にない日本において「カルト」と表現する場合、特に慎重を要します。「カルト」診断にあって明瞭な形での「破壊的」「反社会的」という要素は欠かせません。その要素はとりわけ社会学的に診断する必要があります。キリスト教の「異端」であるか否かではありません。
また統一協会も急激に時代の変化を受けています。「カルトだ!」として宗教法人の解散請求を訴えるのは、10年以上前であればその主張に説得力はあったかもしれません。未だ高額献金や親子関係を壊す倫理的問題などはあっても、現時点で「カルト」と言い切るのは難しいのです。ですから、福田氏の報告を見ると私としても「カルト性が薄まった。」という言い方しかできないのです。

< 全国弁連の異常な執着 >

全国霊感商法対策弁護士連絡会(略称「全国弁連」)が統一協会の解散を文化庁に要請していることについて、福田氏は「その異様な執着ぶり」を伝えています。というのも、これまでにも文化庁は宗教法人の解散請求に対して「権限発動の根拠資料なし」(2003年)「報告や調査を求める要件に当てはまるとは考えていない」(2008年)との理由で、全国弁連からの申し立てを退けています。これに対して全国弁連は2012年に東京地裁に「(統一協会への)質問権不行使および解散命令請求を行わないことは違法」であるとして、国家賠償請求訴訟を提起しているのですが、その請求も棄却(2017年)されているのです。
そのような状況に加え、「2017年の前年、2016年から現在まで7年間、新たに信者から受領した献金を巡る訴訟は1件も提起されておらず、霊感商法の被害も激減している」状態で、さすがに宗教法人の解散請求はあり得ないというのが福田氏の指摘です。

< 何より事態を正しく把握すること >

もちろん私は統一協会を擁護する気などありません。私を知る人たちは、私が統一協会について見えるところでも見えないところでもずっと悪口を言い続けていることは、よく承知しています。しかし、それでもやはり、事態を正確に把握する必要があるのであれば、統一協会「憎し!」を執拗に煽られ、拍車がかけられて憎悪を膨らませ続けることは、決して正しい態度ではありません。
ある統一協会の内部情報に詳しい人物に言わせると、「ここ10年の変化について、(統一協会が)過去を反省して改善に取り組んだ結果ではなく、信者の高齢化・世代交代、献身制度の解体、高額献金・多額の借金による信者の疲弊等の要因により、かつてのような無茶ができなくなった結果と考えています。ので、強いて言うなら『カルト性』の<希薄化>ではないか。」と分析しています。私もこれに同意しているのは言うまでもありません。

< 情報源を選別する必要がある >

安倍元総理の暗殺事件が起こるまで、統一協会問題を扱っていた人間も数少なく情報源も限られた中で、長く統一協会問題をことさら発信してきた紀藤正樹弁護士、有田芳生氏、鈴木エイト氏の意見が世論に大きく反映されるのは当然です。ただ、ここで、この3者が3方向からの視点でそれぞれの意見を語っていれば問題はありません。しかし、私がこれまでずっと統一協会問題を見ている間も、私は彼らを非常に仲の良い同じグループの人たちだと思い続けて疑うことがありませんでした。そうであれば、1つのグループの1つの意見に世論が流れ過ぎることがいかに危険なことであるのかは言うまでもありません。
私もエイト氏の記事を日ごろから参考にしているのですが、彼の記事の20%以上は自分なりに修正を加えたり引き算をしたりしています。エイト氏の『やや日刊カルト新聞』は、「カルト」とみなした団体を「いじる」「おちょくる」を有効な手段として発信することを良しとしているので、彼らからの情報をそのまま受け取っていたら、かなり偏った角度がついてしまいます。
たとえば安倍政権時代の「消費者契約法改正」(2018年)では、霊感商法を狙い撃ちして明確に取り消しできる「不当勧誘行為」として明記されました。この事実をもっても、安倍元総理が統一協会とズブズブであったと情報発信するエイト氏の論調に対して、私はかなり疑問を抱いています。

< 強制棄教させ”使いまわす” >

福田氏はかつて「過去、4300人以上の(統一協会)信者が、プロの脱会屋、キリスト教牧師らに唆された親族によって文字どおり拉致監禁され、強制棄教を余儀なくされた実態」をルポしています。今回の『Hanada』7月号の記事においても「強制棄教させ”使いまわす”」と小見出しが打たれています。キリスト教の牧師が関わる重大な問題です。その要旨は以下の通りです。

①脱会の成功により多額の謝礼金を受ける。②脱会した信者はクリスチャンにできる。③元信者に教団を訴えるように仕向ける。④裁判が始まると弁護士報酬も入る。

もしキリスト教の牧師が拉致監禁などに関わっているとしたら、トンデモナイ話です。恥ずかしいと言ったらありゃしないというのが本音です。もしこれがキリスト教界で問題にならないならば、キリスト教界は腐りかけているといわれても仕方がありません。

< 使いまわされているのか? >

私は「霊感商法」についてかなり批判的に見ています。私の身内にもその被害者がいるので、福田氏が霊感商法について擁護しているような文章を見ると腹立たしく思うのですが、それでも全国弁連のやり方には疑問があります。

1987年から2021年まで全国弁連と消費者センターに寄せられた相談件数は3万4537件で被害額は1237億円と言われています。紀藤正樹弁護士にいわせるとその金額は被害のごく一部で「一般的に消費者相談の窓口が十分に機能していれば10分の1くらいが統計に表れる。機能していなければ100分の1と言われる。仮に10分の1だとしても、1兆円を超える被害が過去に起きている」(しんぶん赤旗7月27日付1面)とのことです。「1兆円」ですか・・・数字を膨らませすぎで普通人一般の感覚がマヒしているのではないかとすら私には思えるのですが、皆さんはどうでしょうか。
ここで「被害額1237億円」の内訳をみて見ると案の定、「霊感商法」に関する5品目(印鑑、数珠・念珠、壺、仏像・みろく像、多宝塔)以外に、人参濃縮液や絵画・美術品、呉服、宝石類・毛皮、仏壇・仏具さらには、これ関係ないだろうという「献金・浄財」や個人の債務の「借入」や「ビデオ受講料等」「内訳不詳・その他」をも含めているのです(参照)。

データを判りやすくグラフにしてくれている人がいて、資料提供をしてもらったのでそれを紹介します。まずこの円グラフを見ると、全国弁連が霊感商法被害として数字を盛り過ぎていることがよく分かります。これでは、統一協会に入るお金はすべて「霊感商法被害」となってしまいます。

また、「ビデオ受講料等」と「印鑑」の数字の相関が顕著になりすぎています。

「ビデオ受講」は信者になる人が必ず受けるもので、「印鑑」は信者が実用と献金を兼ねて購入していると考えられます。印鑑以外の多種多様な物品も総合するとほとんどこれと重なる同じグラフとなります。グラフの提供者は「拉致監禁で脱会させられた元信者は被害をリストアップさせられているのでこんな相関関係がうまれている。」と指摘しています。以上のことからも、福田氏が問題提起していることの意味を、私なりに容易に理解できてしまうのです。

< 拉致監禁された人たちの証言 >

キリスト教牧師らによる拉致監禁については、他で紙面を割かねばなりません。私も調べ始めました。その中にはかなり悪質なものが見られます。どうあれ、成人した大人の人間を「自分の子供」だとして親が拉致して長期にわたって監禁するというのは、あってはならないことです。それをアドバイスしているのが、牧師であればなおさらです。キリスト教界は早急に自らの襟を正さねばなりません。拉致監禁に関わった牧師に追従したりその理屈を擁護したりなど、決してすべきではありません。

憲法38条2項の条文「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」に照らして、福田氏は次のように述べています。「拉致監禁された人間の証言が、法廷において信用できるだろうか。」と。さらに、過去の献金訴訟において統一協会を訴える元信者は「先祖因縁や地獄の恐怖を強調した『畏怖過信』によって脅されて献金したのだ、と判で押したように主張する」と指摘しています。
統一協会を相手に裁判を起こすならば、法廷戦術としても訴える側はそう主張せざるを得ず、霊感商法を担当する弁護士も同じ人たちならば同じ文言となるでしょうから、冷めた目で見れば当然のことかもしれません。しかし、そうとばかり言っていられない「虚言、証拠の改竄」を福田氏は暴露しています。

< 「虚言、証拠の改竄」を暴露 >

『Hanada』7月号では、数々の裁判での具体的な事例における全国弁連の「虚言、証拠の改竄」を福田氏が暴露している記事となっています。それを暴露したうえで「裁判でも多くの嘘を並べるなど悪質極まりない事件を担当した例などあり、弁護士としての倫理観を疑わざるを得ない。もやは全国弁連の主張は全く信用できない。」と述べています。

思うに、このような裁判は争い事でもあるし、どうあれ勝った者が「勝ち」となるのでしょうから、そのための醜い裏技というのもあるのかもしれません。私は「弁護士としての倫理観」についてはあまり期待していないのですが、福田氏の記事を読んである出来事が思い浮かびました。
私が鈴木エイト氏の紹介で全国弁連の東京集会に参加したのが2011年9月9日です。文鮮明氏の死去は2012年9月2日なので、まさにその1年前ということになります。集会後の懇親会において、ラストに士気高揚として山口広弁護士が掛け声をかけ、参加者が全員で「おー!」と叫ぶのです。その時の山口弁護士の叫びが「文鮮明は地獄へ堕ちろ!」でした。それに対して会場の70~80名ほどの人間が皆で「おー!」と応答するのです。はて、どこの世界に「弁護士としての倫理観」などあるのでしょうか。信者を拉致監禁することで有名な牧師たちもそこには参加していました。恐ろしい人たちだなと。

< 最後に >

私は若い頃より統一協会問題を調べていて「なぜ人が統一協会に入信するのか」がどうしてもわからず、ついには統一協会に潜ってみた経験があります。外から聞くと中を見るとでは大違いでした。「先祖因縁や地獄の恐怖を強調した『畏怖過信』によって脅されて献金した」というだけでは、あの組織は成り立ちません。私たちキリスト者には残念なことですが、統一協会には優れた人的交流も熱意も理想もあるのです。それを理解したうえで、どう統一協会問題に向き合うかです。キリスト教の敵はそう簡単ではありません。
半分だけの真実は半分の偽りでもある。」というのは、ある神学者の言葉の切り抜きですが、統一協会問題については、何が真実で何が偽りであるかの両面をちゃんと見極めねばなりません。そのとき、情報源が偏ることの危険は言うまでもありません。
その意味でも月刊『Hanada』における福田ますみ氏のルポは、統一協会問題における真実を正しく知ろうと思う人であるならば、一度目を通しておくことをお勧めします。