【対談】西岡×中川「統一協会解散請求への疑義」1−中川晴久−

【 統一協会解散請求への疑義 】

 

    

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統一協会解散請求への疑義
中川晴久(東京キリスト教神学研究所幹事)・西岡 力(モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授)
出所:月刊「正論」令和25年12月号

中川
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令を文化庁が東京地裁に請求しました。キリスト教の牧師としてここまでの政府の動きを見てきましたが、私は大変問題があると考えています。
政府が解散命令を請求した際、解散命令が認められない事態などまず通常は考えにくいのですが、それが成り立つのは正しい動機、正しい主張に基づいた請求である場合の話であって、今回はそうではない。
スイスのカトリック神学者、ハンス・キュンクが「半分の真実は半分の偽りである」と言っています。私が痛感するのは、明るみに出ていることの陰で、隠されていることが存在することです。もう半分の真実という、全く表に出ずに私たちには見えていない部分があって、皆が一面だけを見て物事が進んでいるように思えてなりません。
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例えば、今回の解散命令請求には、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が集めた証拠や裁判資料、知見の数々が使われています。「事実なので問題ない」という人もいるかもしれませんが、一民間団体、それも教団と長年敵対・対峙してきた組織の主張を政府が代弁し、情報も依存しているに近い。手続きの中立性という意味で大いに疑問です。
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西岡 私は恐怖すら覚えました。そもそも旧統一協会が解散されなければならない事情がいつ生まれたのか、が不可解です。旧統一協会には、相当以前からさまざまな批判があったが当時の国、文科省は一貫して「解散命令請求はできない」という立場を繰り返し示してきました。
岸田文雄内閣も昨年十月十四日にその立場を閣議決定しました。二〇一二年に文科省が解散命令請求をしないことは違法だとして全国弁連が国家賠償請求訴訟を起こしましたが、これも二〇一七年、東京地裁は訴えを棄却しています。にもかかわらず今回は請求に踏み切りました。
それは閣議決定のわずか五日後の昨年十月十九日に岸田首相が、その解散命令の根拠対象を刑事、刑法に違反した行為だけでなく、民法七〇九条の不法行為も含めると一晩で答弁を変えて広げたからで、そこから今日の事態につながっています。その時も私は恐怖を覚えましたが、そもそも、旧統一協会を宗教法人として解散させなければならない、一体どのような出来事や事情の変化があったでしょうか。

 

例えば許し難い被害事例が新たに判明したのでしょうか。「何が起きたから解散となったのか」がさっぱり分からない。これでは「人民裁判」です。
あったのは安倍晋三元首相が暗殺者によって殺害されたことのみでしょう。安倍さんを暗殺した者の親が、どうも旧統一協会の信者だったらしく、暗殺者が旧統一協会に恨みを募らせていたという話です。ただ、これは本人が出てきて記者会見で明らかにした話ではなく、奈良県警が一方的にリークした話があっという間にマスコミで広がったものです。以来、旧統一協会を叩く流れが生まれて、今日に至っています。
ですが、暗殺者が恨みに思っていたという親の献金はかなり以前の話のようですし、彼はもう成人しています。成人して自分の生活を営んで家計も独立していたのですから、親が自分の財産をどう使おうが、彼に関係しない話でしょう。それに安倍さんが教団と近いと暗殺者が認識したことも腑に落ちない。
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中川 そうなんですよ。
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西岡 安倍さんと教団は近くないんですよね。
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中川 そう。安倍さんが旧統一教会と「ずぶずぶ」であるとジャーナリスト、鈴木エイト氏が一生懸命言ってますが、安倍さんと旧統一教会双方を見ても私はそんなことないですよと。
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西岡 問題になった天宙平和連合(UPF)に提供したビデオメッセージもそう。メッセージ全文を読んでも教団のことはないわけですよ。
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中川 そう。オーナーである韓鶴子総裁、ありがとうございますという社交辞令のみという点で「ずぶずぶ」はないでしょう。それにUPFは国連経済社会理事会の総合協議資格を持っているNGO団体です。国連NGO団体は六千以上ありますが、総合協議資格のある団体は四百十二しかない。
トランプ前米大統領、マイク・ポンペオ元米国務長官も同じようにメッセージを送ってるわけです。だから安倍さんも出したのであって「ずぶずぶ」ではないですよ、と。
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西岡 そう。さらに鈴木氏は、ビデオメッセージで安倍さんが五千万円もらったとも言っていた。
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中川 後になってトランプ氏にはこれで一億円、安倍さんにはその半分の五千万円が支払われ、「確かな証拠がある」と言っていましたが、結局UPFから訴えられました。安倍氏側も、UPFも否定していますからね。
さらに鈴木氏は安倍氏が二〇一六年六月上旬に当時の徳野英治・旧統一教会会長を官邸に呼んだとも言っています。これまた彼だけが持っている情報です。彼は二〇二二年七月十二日にブログで「皆さんにお願いです。統一教会と安倍晋三元首相のずぶずぶの関係を明確な論拠で語ることができるのは私以外いません。私のアカウントをフォローし、ツイートをリツイートしてください。そして私を押し上げてください」と書いています。
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西岡 ですが、その論拠は依然示されていないんですよね。朝日新聞が社説で、教団の広告塔となった安倍元首相の銃撃事件から、と安倍さんを「広告塔となった」と断じていました。反安倍の人たちが、旧統一協会と安倍さんは近い、暗殺者の行動に一理あるという方向に持っていこうとしています。解散命令請求で政府が暗殺者の思惑を完遂した形になっていることも問題だと思っています。
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第2回に続く

<掲載>

月刊正論  2023年12月号 (発売日:2023年11月1日)
「解散命令請求への疑義」