日本葬送宣教論 (2) 大きく変わる日本の葬送 −金井望−

(トップの絵:堀江優作「十字架より主を降ろす」)

 

 

 

 

 

 

 

金井 望(カナイノゾム)
日本キリスト者オピニオンサイト SALTY  論説委員

【前回】日本葬送宣教論 (1) 序論

本 論

第1章 葬式仏教の消滅

第1節 大きく変わる日本の葬送

 

「わたしの霊は、永久には人のうちにとどまらない。人は肉にすぎないからだ。それゆえ人の齢は120年にしよう」(創世記6:3)


世界で最高レベルの高齢化率 − 日本
 今や我が国は世界でトップクラスの長寿国となっている。終戦後間もない1974年には、日本人の平均寿命は男性が50.06歳、女性が53.96歳であった。2016年の日本人の平均寿命は女性が87.14歳、男性が80.98歳で、いずれも過去最高を更新した(厚生労働省「簡易生命表」)。平均寿命が延びている理由の一つは、がん、心疾患、脳血管疾患の3大疾患による死亡が減ったことである。医学の進歩によって、これから日本人の寿命は100歳に近づくと言われている。「人生50年」と「人生100年」では、人生観もライフスタイルも大きく変わるのは、当然である。

 我が国の総人口は平成28(2016)年10月1日現在、1億2,693万人で、65歳以上の高齢者人口が3,459万人であり、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は27.3パーセントである。これは世界で最高レベルの高齢化率である。世界保健機構(WHO)や国連の定義では、高齢化率(総人口のうち65歳以上の高齢者が占める割合)が7パーセントを超えた社会は「高齢化社会」、14パーセントを超えた社会は「高齢社会」、21パーセントを超えた社会は「超高齢社会」とされている。日本では高齢化率が7パーセントを超えたのは1970年であり(高齢化社会)、1994年には14パーセントに達し(高齢社会)、2007年に21パーセントを超えた(超高齢社会)。日本は、高齢化の進行の速さが際立っている。

「家族葬」「無宗教葬」「直葬」の増加
 今や葬送において故人を送る人たちも、高齢者となっている。従来の形式の葬送を行うのは、体力的に厳しい遺族が多い。そのため葬送は簡略化する傾向にあり、家族など少数の近親者だけで行う「家族葬」が一般化しており、全体の3割以上になっている。葬儀に対する意識も大きく変わっており、僧侶を呼ばない「無宗教葬」が増えている。そして、葬儀無しで火葬をする「直葬」が増えた。直葬が増えているのは、高額な費用負担、人間関係の希薄化、葬儀に対する意識の変化が要因と思われる。人口増加が続いた横浜市では斎場が不足していて、火葬まで一週間も待たされることがある。直葬でさえ簡単にはできないのが実情である。

 葬祭の情報サービス会社である鎌倉新書が2017年に全国で実施した調査によると、葬式の費用は次のとおりである。

40万円未満     15%
40~80万円     20%
80~120万円未満 29%
120~160万円未満 14%
160~200万円未満 10%
200~240万円未満  5%
240万円以上    8%

 全国の葬儀の平均総額は178.2万円である(葬儀費用・飲食代・返礼品を含む。お布施は除く)。その内訳は、葬儀費用(葬儀社へ支払うもの)が117.1万円、飲食費が29.3万円、返礼品が31.8万円である。

 最近の葬式の変化には、経済的な事情も関係している。1991年(平成3年)から20年以上続いた平成不況によって、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員等の非正規雇用労働者貧困層が増加し、日本の相対的貧困率は16パーセントにまで達した(厚生労働省「国民生活基礎調査」2012年)。生活保護受給世帯数は1990年には62万世帯であったが、2017年には164万世帯になった。その50パーセント以上が65歳以上の高齢者世帯である。

 ところが、戒名料の相場はバブル経済の時期にインフレを起こしたまま下がらず、「信士・信女が30~50万円、居士・大姉が50~70万円、院信士・院信女が80万円以上、院居士・院大姉が100万円以上」などと言われる。日頃、お寺との付き合いが無いのに、突然、「戒名料は格付けによって20万円から200万円まで違いがある」などと聞いたら、驚いて他の手を考えるのも無理はない。まさか本当に、地獄の沙汰もカネ次第?

 東京都内には、数千基が納骨できる「無宗教式永代供養」の巨大な「ビル型納骨堂」が10棟以上もあり、これがどんどん増えている。

ビルに眠る1万の御霊——機械式納骨堂が映す供養のかたち 2017/6/9(金) 8:48 配信(ノンフィクションライター・熊谷祐司/Yahoo!ニュース 特集編集部)

最近の葬送のトレンド
 最近の葬送のトレンドをまとめると、次のようになる。
(1) これまで一般的であった 臨終→密葬→通夜式→本葬儀(告別式)→火葬→法要→納骨 という流儀が崩れて、葬送儀礼が全体的に簡略化している。
(2) 葬式を一日で済ませるケースが増えている。喪主・遺族・会葬者に高齢者が多くなったため、葬式に二日も三日もかけることは体力的に困難になっている。
(3) 少人数で葬儀を行う家族葬や、葬儀をしない直葬が増えている。
(4) 僧侶を呼ばずに無宗教で葬式を行うケースが増えている。
(5) 葬儀とは別に「お別れの会」をホテルなどで開催するケースが増えている。
(6) 寺院主導の葬儀が減少し、葬儀社が主導する葬儀が増えている。
(7) 家族葬に特化した小規模の葬儀社が急増している。
(8) 葬式にかける費用が低減傾向にある。

 ちなみに筆者は、タイミングによっては教会の主日礼拝を「追悼礼拝」として、それを本葬儀にしている。また、故人が地域社会で活躍していた場合、ご自宅で「お別れの会」を持ったりする。教会は遺族や関係者の高齢化を考慮して、その時々の状況に応じた適切な対応をしていくことが重要であろう。

 

【次回】日本葬送宣教論 (3) 「家」と「村」