「分断」を前提とした「融和」ではなく、「柔和」・「協和」な生き方を −井草晋一−

 

井草晋一
SALTY 論説委員
ピヨ バイブル ミニストリーズ 代表
日本メノナイトブレザレン教団
武庫川キリスト教会  協力牧師

「分断」を前提とした「融和」ではなく、「柔和」・「協和」な生き方を

〜「分断」の表現・指摘は、民主主義を破壊する!〜

 ●明確な主張は、分断を煽ることなのか?
 一昨日(11/8)、ジョー・バイデン候補が主要な激戦区でドナルド・トランプ大統領を僅差で破り、次期のアメリカ大統領として選出された(当選確実)との報道があり、現在、政権移行に向けての準備を加速しているとのことです。
 今回のアメリカ大統領選挙でも感じましたが、勢力が拮抗した候補者の主張や支援者の動向、また、明確に見解が相違する優劣や判断が難しい課題に対する「明確な見解」を主張することが「分断に繋がる」「分断を煽っている」との欧米、また、日本のメディアの指摘や報道姿勢があります。
僅差の開票動向を指摘する中で、同様な見解を述べる人々もありました。
 選挙結果で一票でも多い方が勝利し、該当する立場(大統領、首相、また、議員、社会組織の長、など)としてそのの職責を担うことは、民主主義の基本です。

 しかし、 「分断」=<悪> 「融和』=<善> のような二元論的な考え方の行き着く先は、民主主義の破壊や、全体主義、強権的な国家運営の出現や組織運営の逸脱・歪曲につながると危機感も覚えました。

●「聖書」は、何を教えているのか?
 聖書は、「愛をもって真理を語ること」、「相手をすぐれた者として尊敬し合う」ようにと教えています。
 また、使徒パウロは、たとい鎖に繋がれていても「語るべきことを大胆に語れるように」と、祈りの要請をしています。
神の似姿としての人間は、互いにそれぞれの考えや明確な主張をすることに対して、いささかも躊躇したり、自他ともに制限するようなことがあってはならないと、あらためて教えられます。
他者に対して、愛と尊敬をもって明確に自らの考えや主張、真理・真実な見解を表明することは、本来、いささかも「分断を煽る」ことでも、社会を二分化させるものでもありません。

●「分断」を指摘する者が民主主義を否定
「分断」と指摘されているような状況は、近年、「同性婚」がアメリカの最高裁で認められた時(2015年6月26日)以降に顕著になってきているように思われます。しかし、それ以前から「アメリカの建国以来の聖書に基づく価値観やキリスト教の精神」を拒否し、東洋的・神秘主義的、多神教・汎神論的価値観に迎合して行った時代から続いています。

 しかし、このようなアメリカの旧来の価値観とは違った見解であっても「分断」ではなく、それぞれの信条、信仰、価値観に基づいた「主張」や「行動」です。

 けれども、これらをの見解を受け入れない、旧来の「保守的、伝統的アメリカの価値観」を<非寛容><分断を助長する>として、「アメリカ社会の分断である」と論説するアメリカの各種のメディア、そして、日本のメディアの報道姿勢こそ、究極的に「民主主義」を自ら否定することにつながると言えましょう。

●「融和」ではなく「柔和」、「協和」な生き方を 
 今後、驚くべき国際情勢の推移や究極的に民主主義の否定につながるような動きも出てくるでしょう。
 このような中にあったとしても、キリスト者は自らの信仰と行動において、使徒パウロのように「神に対する悔い改めと、私たちの主イエスに対する信仰とをはっきりと主張」しつつ、キリストの姿に倣った「柔和」な生き方を身をもって示し実践していきたいものです。

 それとともに、日本国民としては、聖徳太子が作ったとされる「和をもって尊しとなす」(以和為貴=協力・協調・協和が大事である/十七条憲法)にあるような生き方、多様な民族や見解がある中でも十分な議論を重ねつつ、互いに「協和」していく道を歩んでいきたいと、切に願います。

 21世期の様々な相対する価値観や一見すると二極化したように見える時代にあっても、個人、社会、国際関係における相互理解と関係回復の道は、「分断」を前提とした「融和」ではなく、「柔和」・「協和」な生き方にあると言えましょう。

 困難な問題があっても、関係者が車座になってともに集い、互いの真摯な話し合いの中で問題解決を図る「サークルプロセス」(*注1)の実践を通じて。

● 「コロナ禍」の中の互いのための祝福
 新型コロナウィルスの著しい感染拡大もあって、価値観が錯綜し、社会、経済状況の「明日」が見えない中で「大統領選挙」に直面したアメリカ国民。
 お一人お一人の祝福と、新たに選出される大統領のもとでの「コロナ後」の政権が神の御心にかなった国内政策と外交政策を進めることができますようにと、祈ります。
 また、世界のそれぞれの国民の健康の守りと、社会・経済の回復のためにも。

 大陸からの時に数万の渡来人が、朝鮮半島に派遣された日本軍の働きの中で来日し、日本で定住しつつ、大和朝廷の中央集権国家建設に貢献して行った時代を振り返るとともに、21世期の今、就労のために来日し家族を呼び寄せて生活されている方々や、勉学のために居住している様々な国から来られた若者たちの祝福を心より祈ります。

 

(*注1): サークル・プロセス ・<参考>「レンスを換える平和問題」