発見!!「政治声明発表に関する『ガイドライン』」-後藤献児朗-

 

 

 

 

 

 

後藤献児朗
日本キリスト者オピニオンサイトSALTY代表
有限会社サーブ介護センター 代表取締役

発見!「政治声明発表に関する『ガイドライン』」

− 日本ホーリネス教団の政治声明発表に関する「ガイドライン作成」の意義 –

 外交政策に関する日本政府の各種法整備をめぐり、政府(政権)に対し「声明」を出す、キリスト教界の組織や団体、教団が相次ぎました。ところが、その声明が教団に属する信徒に知らされぬまま出されていたこともあり、「教会が政治活動を行うことへの疑問」が信徒の中から出始めたのです。

 政治声明を出されたいくつかの組織や教団に確認をしたところ、「組織(教団)内で然るべき手順を踏んで声明は出されている」という回答が多く、具体的にその「手順」と言われるものの存在について、濁されるばかりでした。そのような中で、数多くあるキリスト教団体の一つ「日本ホーリネス教団」の関係者から、とても興味ある回答を得ることができました。


日本ホーリネス教団の「ガイドライン」作り

日本ホーリネス教団は、日本のプロテスタント史上最大の事件とも言われる、戦時中に124名の教職者が一斉検挙されるという「ホーリネス弾圧事件」で有名ですが、その辛く苦しい経験から、戦後国家権力に対し「弾圧を受けた当事者団体」として危惧される政府の動きをけん制し、度々「声明」を発表してきました。

 ところが教団関係者の話によると、ある頃から教団に属する教会信徒の中から、「声明発表」に関する疑問の声や苦情が上がるようになった、とのことです。苦情の内容は「教団内の一部の人たちが勝手に声明を出しているのではないか」という声であり、その背後には、首相や政府に抗議や反対をすること自体に反対の意見の方々もいたのではないか、とのことです。

 またそうした声とは別に、「政府に対して抗議などしたら目をつけられて迫害を招く原因になりかねないからそういうことはすべきでない」という信徒の声を直接聞くこともあったと聞きます。(その方は、集団的自衛権は国際社会の中で当然の権利として認められている、という考えをお持ちの方でした。)

 おそらく、教団内にあった不満や懸念の多くは、自分たちの知らないところで所属教団から政府に対して「抗議」や「反対」の声明が出されることへの違和感、あるいは戸惑いではなかったか、との教団関係者の話しでした。

 そうした声に対し、日本ホーリネス教団で「政治声明を発表するためのガイドライン」を作ろうということになった時、他教団の資料を基にして作成されたわけではありませんでした。つまり戦時中に弾圧を受けた被害者と言い伝えられてきた教団が、色々と戦時中の資料が見つかって「被害者」というだけではなく、「自分たちの教会にも責任があった」ということに気づき、教団全体の意見をまとめて、1997年教団総会で「戦争責任告白」を可決採択しました。このような特殊事情により、他教団を見習って作成しようという発想はなかったとのことです。従ってガイドラインの内容はそのような経緯で戦争責任告白を採択した教団として、その信仰の告白にふさわしい発言をしていこうという動機に根ざしているとのことです。

そして度重なる協議の末、ガイドラインは2014年9月に完成しました。

<資料:PDF>
http://www.jhc.or.jp/_src/6647004/201409%20声明ガイドver6_確定版-2.pdf

 日本ホーリネス教団にとっては、新しい画期的なことを決めたというような意識はなく、キリスト教系報道機関に対して、ガイドラインの作成を知らせようという発想はありませんでした。「今まで当たり前のようにやってきたことを、教団内の疑問の声に応えて明文化し発表しただけですから」と教団関係者の談。


「政治声明発表に関するガイドライン」作成の大切さ

 日本ホーリネス教団の「ガイドライン作り」には、とても学ばされます。
組織内に起こった「不安と疑問の声」に対して、できる限りその「不安や疑問」を低減させるため、「声明発表までのルール作り」に取り組んだわけですから、組織が信徒の声に向き合った姿勢は称賛されるべきなのかもしれません。

 ところが、この「ガイドライン作成」は、一般社会において「当たり前」のことであっても、キリスト教界においては、未だ整備が進んでいない分野でもあります。果たして、日本ホーリネス教団のように「政治声明に関するガイドライン」を作成し、詳細にわたって「明文化」しているキリスト教系の組織や教団、そして団体はどれほどあるでしょうか?

 こうしたガイドラインが明確にない教団(団体・組織)で、「キリスト者を一括りにした声明」を出すことがあります。このことについて、他教団の教職者や信徒の中から、疑問の声が噴出している事実を看過することはできません。

 残念なことに、今や世間一般から「キリスト教は左翼」と揶揄されることがあります。キリスト者と言えども、考え方は様々です。キリスト教全般が政治的なレッテルを張られてしまうことで、そのことが「福音宣教」の足かせとなってしまうことにもなりますから、日本ホーリネス教団のように、「団体(組織)としての政治的スタンス」を明確にした上で、「ガイドライン」に則った「声明発表」などの活動を行うことで、そうした「キリスト教を一括りにしたレッテル張り」を避けることができます。そうした意味で、日本ホーリネス教団の「ガイドライン作成」はとても意味のある動きだと感じます。

 日本のキリスト教界の多くの教団(組織)が、日本ホーリネス教団のガイドライン作成に至るまでの経緯と、その内容について参考にして頂きながら、各々の教団、団体、組織の政治的スタンスの在り方を考える機会となることを祈ります。

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*(上段の写真は、日本ホーリネス教団のホームページより撮影)