韓国で自由民主主義体制を倒そうとする革命が進行中 -西岡 力-

 


西岡力

「救う会」
北朝鮮に拉致された日本人を救出する全国協議会 会長
日本キリスト者オピニオンサイト -SALTY- 主筆

 昨年5月以降、私は繰り返し、韓国の文在寅政権は大韓民国が建国以来、守ってきた体制を転覆する「革命」を起こそうとしている、と主張してきた。北朝鮮の核ミサイル開発とそれを止めようとするトランプ政権の動きなどに関心が集まる中、文在寅政権が行っている革命としか呼べない体制否定の動きについて日本ではほとんど注目されていないが、その危険な動きは速度を増している。

 そのゴールは金正恩個人独裁全体主義政権に韓国全体を差し出す赤化統一だ。それが実現すれば、当然、米韓同盟は破棄されて在韓米軍は撤収し、近代装備で武装した韓国軍60万が日本に向いてくる。共産主義勢力との間の緩衝地帯としての韓国がなくなるだけでなく、韓国の軍事力がそのまま、金正恩政権下中国共産党政権と連繋する敵性勢力となってわが国の目前に出現する。38度線が対馬まで下りてくるとはそういう過酷な現実を意味する。


●李明博元大統領の抗議文(告発)

同じ危機感を李明博元大統領も持っていた。李元大統領は、3月23日に逮捕され、4月9日に起訴された。彼は起訴された日にSNSを通じて「自由民主主義を瓦解しようとする意図だ」とする抗議文を公開した。その一部を紹介する。

〈私を狙った捜査が10ヶ月以上続きました。インターネット書き込み関連捜査で調査された軍人と国家情報院職員2百人余りを除いても、李明博政府の大統領府首席秘書官、秘書官、行政官など何と百余人を越える人々が検察調査を受けました。 (略)

 李明博政府と朴槿恵政府で安保の第一線に立った、国家情報院長と大統領府安保室長、国防部長官はほとんど逮捕または起訴されている実情です。彼らにかぶせられた罪名が何であっても外国にどのように映るのか、北朝鮮にどんなメッセージとして伝わるのか憂慮しないわけにはいきません。
感情的なうっぷん晴らしで政治報復なのかと思いましたが、これは私、李明博個人を越えて私たちが血の汗を流して成し遂げた自由民主主義体制を瓦解させようとする意図があるという結論に至りました〉

 李明博元大統領が告発しているように、李明博、朴槿恵政権時代に安保の第一線で北朝鮮と対抗してきた国家情報院長安保室長国防部長官らが次々、逮捕され起訴されている。

国家情報院長の逮捕と起訴

まず国家情報院長を見よう。李明博政権(2008年2月〜2013年2月)、朴槿恵政権(2013年2月〜2017年3月)の国情院長は次の5人だ。この5人の全員が検察の取り調べを受けて起訴され、1人は有罪確定判決が確定し、3人は1審実刑判決で身柄を拘束され、1人は在宅起訴状態で1審判決を待っている。

 李明博政権下の金成浩元院長(2008年3月26日 – 2009年2月12日)は2018年3月、在宅起訴された。2008年5月に国情院活動費4億ウォンを李明博大統領に渡したという容疑だ。なお、国情院活動費を大統領に渡すことは李明博政権時代からの慣例とされ、個人の利益に使われてはおらず、大統領府の統治活動に使われたとされている。国庫予算の使途変更だが、盧武鉉、金大中時代にも同種のカネが使われていたという疑惑も提起されており、個人の犯罪とするには無理が多いという評価がある。

 元世勳元院長(2009年2月12日 – 2013年)は朴槿恵政権時代の2013年6月、インターネット上の書き込みで2012年の大統領選挙に介入した疑いで在宅起訴された。同年7月に1億5000万ウォン相当の金品を建設業者からワイロとして受け取った収賄容疑で逮捕された。選挙介入ついては、1審は懲役2年6月、執行猶予4年。2審で懲役3年の実刑。2015年7月に、最高裁が2審判決を破棄し、ソウル高裁に審理を差し戻したが、文在寅政権下の2017年8月30日のソウル高裁差し戻し審で、懲役4年の実刑判決を言い渡され、2018年4月19日に最高裁が高裁の差し戻し審判決を支持する判決を言い渡し、懲役4年の実刑が確定している。

 南在俊(2013年 – 2014年6月)元院長は、在任中に北朝鮮独裁政権を倒して自由統一を実現するというビジョンを語っていた気骨ある陸軍大将出身の職業軍人だった。2013年6月には、盧武鉉・金正日の会談議事録全文を公開して、盧武鉉大統領があたかも金正日の部下であるかのように北朝鮮核開発を米国などの首脳に対して弁護してきたと報告し、海上の休戦ラインであるNLL(北方限界線)を放棄するかのような発言をしていることなどを暴露し、北朝鮮メディアから連日名指しで非難されていた。しかし、2014年ソウル市職員のスパイ事件で交錯部門の部下職員が証拠を捏造したとされ、責任を取って辞任した。朴槿恵弾劾後には、大統領選挙に出馬して文在寅が当選したら韓国は赤化すると主張し、選挙終盤で自由韓国党の洪準杓候補支持を表明して候補を辞退した。文在寅政権になり国家情報院活動費6億ウォンを朴槿恵大統領に渡した容疑などで逮捕された。2018年6月15日、ソウル中央地裁にて特定犯罪加重処罰法(国庫損失)違反などで懲役3年の実刑判決。

 李丙琪(2014年6月 – 2015年3月)元院長は、外交官出身で朴槿恵政権時代に悪化した日韓関係の立て直しに尽力した知日派だ。国情院長就任前の2013年6月から駐日韓国大使となり、韓国大使として初めて日本人拉致被害者家族と面会した。2014年7月より国家情報院院長、2015年3月、大統領秘書室長として朴槿恵大統領を支えた。崔順実スキャンダルが浮上する数カ月前の2016年5月に大統領秘書室長を退任している。文在寅政権になり、南元院長と同様に、国家情報院活動費8億ウォンを朴槿恵大統領に渡した容疑などで逮捕された。2018年6月15日、ソウル中央地裁にて特定犯罪加重処罰法(国庫損失)違反などの罪で懲役3年6カ月の実刑判決。なお、李丙琪氏が大統領秘書室長在任時に、最高裁判所が同氏の意向を忖度して元徴用工らの裁判の確定判決を先延ばしにしたとして、現在、最高裁判所の司法行政権濫用事件が捜査中だ。この点については本稿後半で詳論する。

 李炳浩(2015年3月 – 2017年6月)元院長も南元院長と同じ職業軍人出身で、在任中、北朝鮮から多数の高位層亡命者を韓国に入国させるなど活発に対北工作を展開した。文在寅政権になり、南元院長らと同様に、国家情報院活動費21億ウォンを朴槿恵大統領に渡した容疑などで在宅起訴され。2018年6月15日、ソウル中央地裁にて特定犯罪加重処罰法(国庫損失)違反などの罪で懲役3年6カ月の実刑判決をうけ法廷で拘束された。
国情院は前職院長が全員、起訴される事態となり、混乱に陥り対北工作やスパイ取り締まり機能が大幅に弱体化してしまった。

国防部長官大統領府国家安保室長

次に李明博、朴槿恵時代の国防部長官大統領府国家安保室長だが、前者は4人中1人が、後者は2人中2人が文在寅政権になって在宅起訴された。
国家安保室長は朴槿恵政権になって新設されたのだが、初代の金章洙元室長(2013年 3月〜 2014年 5月)は、文在寅政権になり2018年3月、セウォル号沈没事件の際の朴槿恵大統領への最初の報告の時間を実際より早く捏造した容疑で在宅起訴された。

 李明博政権最後の国防長官だった金寛鎮は朴槿恵政権下でも長官を留任し(2010年12月4日〜2014年6月29日)、退任後、すぐ金章洙の後任の安保室長(2014年 6月 ~ 2017年5月)に任命され李明博、朴槿恵政権の安保政策を支えた。やはり、文在寅政権になって2017年11月検察が国防長官在任時、軍の心理戦部門を使って2012年12月の大統領選挙に介入した容疑で逮捕した。その後、裁判所が拘束を認めなかったので釈放されたが2018年3月在宅起訴された。