美田を残す、元気印老人の夢 −亀井俊博−

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写真:「西谷の森公園」宝塚市

 

 

 

バイブル・ソムリエ:亀井俊博

「西宮北口聖書集会」牧師
「芦屋福音教会」名誉牧師

「美田を残す、元気印老人の夢」

2021・11・3

人生120年時代の到来

 先日、芦屋キリスト教協議会と言う、芦屋市内のカソリック、プロテスタント等市内キリスト教会のほとんどが参加する団体が主催する“市民教養講座”で、“モーセ”についてお話しくださいと依頼を受けました。そこで“人生120年時代のヒント、モーセに学ぶ”と題してお話ししました。

 モーセと言う人は120才まで生きた人で、超長寿社会到来(“人生120年時代が来る「抗老化」研究最前線リポート”週刊朝日2021・7・23)の現代人の生き方モデルとなると思います。

 彼の人生は3期に分かれ(使徒7章)、
第一期1~40才は自己実現期、紀元前13世紀古代エジプト帝国の奴隷階層のヘブル人出身でありながら、奇しくもエジプト宮廷で育ち、最高の教育をほどこされた。
第二期40~80才は自己否定期で、40才の時自分の中にヘブル人の血が流れるのに気づき、エジプトの役人を殺して苦役に悩む同胞を解放しようとして、ファラオから危険分子視、命をつけ狙われ、王宮から荒野に逃亡、以来一介の羊飼いとして、地下に身を隠し80才老残の身となる。
第三期はミッション期で、迷羊を追って入った深山で神ヤハウエに出会い、エジプトの奴隷に呻吟する同胞を救えと命じられ、高齢を理由に拒むが、遂に折れて民族解放の戦いを40年苦心惨憺の末、難民の様に荒野を旅し、神の約束の地、乳と蜜の流れるカナンに民を導く。

「モーセは死んだ時、120才であったが、目はかすまず、気力は衰えていなかった」(申命記34:7)と聖書は記す。現代人として、ここから学べるのは人生100~120年時代では、超高齢時期であっても元気印の方々は、余生だとか、隠居や終活時期ではなく、多いに神のミッションに生きる夢がある、と言う事です。

老人は夢を見る

「聖霊が注がれる時、若者たちは幻を見、老人たちは夢を見る」(使徒2:17)と聖書にあります。そこで後期高齢者の私の独断と偏見で描く、老人の夢を申し述べます。西郷隆盛は“子孫に美田を残さず”と遺言したとか。財産を子孫に残すと遺産を巡って骨肉の争いの原因となり、あるいは遺産を当てに怠惰な人間になる危険性がある。むしろ美田を当てにせず自分の力量で人生を切り開け、と言う事でしょう。良く分かります。世界遺産だらけの現代日本の気力の無さは、先人の遺産の上に胡坐をかき、あるいは遺産を食いつぶしているところにもあると思います。

 しかし、私は別の面で、高齢者は負の遺産を後世に付け回しているではないか、と危惧するのです。美田・遺産どころか負債や借金を子孫に残す事だけはしてはならない。あの第二世界大戦の敗戦の結果、恐ろしい被害を自国民はおろか、他国民にも与え、亡国の危機をもたらせた先輩たちは反省し、戦後は平和憲法を奉じひたすら働き復興を遂げ、良き美田・遺産を現代の団塊の世代高齢者に残して下さった。自分が作った借金は自分で支払っただけでなく、ひと財産作って残してくれたのです。にも拘らず、その恩恵を受けた現代の高齢者が、次の世代には負債と借金を残して、食い逃げするのか?!と問われています(「シルバー・デモクラシー、戦後世代の覚悟と責任」寺島実郎、岩波新書)。

高齢者の負の遺産と解消責任の夢

 そこで以下、元気印の高齢者にモーセの人生から学ぶ、負の遺産と解消責任を果たす“高齢者のミッション”の夢にチャレンジしたいのです。

 第一の負の遺産、少子高齢化

 第一の負の遺産は少子高齢化社会です。国力はやる気のある国民が少しづつでも増加するところにあります。それが減少すれば、衰退は必至です(「なぜ日本は没落するか」岩波新書)。現代はマルクスやケインズの経済学以上にマルサスの人口論評価の時代です(前掲書で経済学の森嶋道夫は下部構造が上部構造を決定すると言うマルクス理論を、マルサスの人口論とウエーバーのエートス論で修正、よく教育された人口こそ下部構造だとした。さらに歴史人口学のE.トッドは、社会は初等教育普及で近代化に離陸し、中等教育普及で中間層が生まれ、高等教育が普及すると格差が生まれるとした、「新ヨーロッパ大全」E.トッド、藤原書店)。

次に既に近代化の極点に達した日本社会の、全体的衰退の主要要因である少子高齢化による人口減少の負の遺産(オーナス)解消策の夢を提示します。

 一億二千万の人口中、65才以上の高齢者数は世界一位、3,640万人(総人口中29.1%、2021年総務省)です。勿論体力的気力的にもう働けない方々、働きたくない方々は沢山おられます。ご苦労様ゆっくりしてくださいと慰労します。しかし、1,500万人くらいは元気印がおられますよ(就労高齢者数906万、総就労者数6,696万中13.6%、2020年)。皆がみな認知症や施設生活、毎日医者通いではないのです。後期高齢者の私の周りに、元気印で有能な高齢者は沢山います。現在の就労高齢者以外にも、リタイヤ後は就労せず悠々自適の生活を楽しみ、ボランテアに勤しむ方々もおられ、それはそれで結構ですが、何とももったいないなあ、というのが私の実感です。

 これから労働者人口激減で経済はじめ全てがシュリンク(収縮)、ダウンサイジング(縮小化)に向かいます。それは同時に国力低下の危機にある。対策として長年女性活躍就労、外国人労働者導入が叫ばれながら、国民性なのか遅々として進まない。識者は保守的閉鎖的国民性を非難しますが、やはり建前の裏に何らかの暗黙知がある、と見るべきでしょう。今後も長期的に改善に取り組み、女性活躍就労、外国人労働者導入は図らねばなりません。しかし、既に高度の教育を受けてスキルを持つしかも国内はもちろん、世界を相手のビジネスに実績のあるシニアー熟練労働者が、1,500万人も隠れた宝として埋蔵されているのです。これを活用しない手はないのです。

 勿論、若い方々と競合して、過去のキャリアを鼻にかけ煙たがられたり、収入や職を奪う愚策を避け、互いに棲み分けて賢く活用すべきことは言うまでもありません。こうすれば団塊の世代現代高齢者が亡くなるまでの、今後中期的20年スパンでの労働者激減の日本の危機は、相当解決できます。私は牧師として長年、現在高齢者の実力の凄さを良く知っています。まだまだ衰えるどころか円熟して決して侮られるものではありません。宝の持ち腐れでなく、大いに活躍を期待できます。

その20年間に、少子化をできる限り解消し、逆ピラミッドから釣り鐘型へ人口動態を戻し、出生率を回復し、人口1億はキープしたいものです。方策は少子化の先進地域西ヨーロッパ諸国で成功した先行事例の政策から学ぶべきでしょう。そして団塊の世代の現在高齢者がこの世を去る時は、よろこんで子供たちを生み育てる、人口も持続成長可能な環境を残す夢を実現したいものです。

 第二の負の遺産、財政破綻危機

 第二の負の遺産は、財政健全化です。今回の衆議院選挙直前に、財務省トップの矢野康治事務次官が、与野党を問わず選挙目当てのバラマキ赤字国債発行政策では、財政破綻は必至であると警告(「このままでは国家財政は破綻する」文春11月号)。やっと、不都合な真実であって、しかも当たり前の事を財政の当局者が警告したという事で、この勇気ある発言は重いです。
所得倍増の成長を目指し、新自由主義でない分配重視の新しい資本主義を模索する会議を設けると政府は言う。しかし、2014年以来のアベノミクスで成長戦略として発表された三本の矢は、①大胆な金融政策、②機動的な財政策、③民間投資を喚起する成長戦略で経済を成長させ、その利益のトリクルダウンが民に滴り落ちる、でした。しかし結果として①のみ機能しゼロ金利策で市場にマネーがあふれ、経済低迷で行き先のない金は株市場に向かい、株価上昇による一部富裕層・大企業の所得を増やしても、大多数の国民は所得減少の格差がワニの口が大きく開くように拡大。
今後は与野党ともに②を強調、MMT(現代貨幣理論)により国債発行による財政出動を、有望成長戦略産業分野に大胆に注入、で成長させようと言うことです。その分野としてDX,グリーン・エコノミー、子育て教育支援、基礎・先端科学研究支援、災害対策国土強靭化事業、セーフテイネット強化、経済安全保障分野、等が財政投資先として挙げられています。

 しかし水野和夫(「資本主義の終焉と歴史の危機」)、斎藤幸平(「人新世の「資本論」」)はじめ識者の説くように、日本は経済成長は終わり、“定常経済”(Steady-state economy, ハーマンー・デイリー、「定常経済は可能だ!」枝廣淳子)の時代に入ったのです。また既にアダム・スミスや、マルクスの予測した資本主義経済発展の末の“利潤率の傾向的低下法則”、さらには梅棹忠夫の生態学文明史観による、文明の遷移(サクセッション)の果ての極相(クライマックス)から長い台形(定常、停滞)時代(プラトー)が続くと言う文明史的学説の裏付けがあります。
過去20年間、日本経済はGDP500兆円の長期停滞が続くと言うか、定常化しています。安倍首相・黒田日銀総裁コンビの挑戦も空しく、経済法則の壁は厳としてあるのです。そしてその間成長を念じて投じた赤字国債累積は1,000余兆円。年10兆円元本返済でも100年かかる。その上まだ国債発行とは、狂気かやけか。しかもこれを返済するのは我々の子孫ですよ。我々団塊の世代は、選挙権のない子孫に出生時一人当たり1千万円の借金を負わせている。国債は政府の借金ではあっても国民には貸付金だと言う説があるが、結局返済は国民です。
また国債は支払わなくてよいとの説もあるが、借りたものは返す、基本的経済倫理に反し、モラルハザードの元になります。いやそんな事には目をつぶり、自分の世代だけ生き延びれば、後は野となれ山となれ、ですか。団塊の世代は史上まれにみる無責任世代だったと後世、悪評価されます(寺島実郎、前掲書)。
MMTに近い考えの森永卓郎は後3,000兆円の赤字国債発行しても日本経済はびくともしない、と頼もしい事を言うが、いかがなものか。

 そこで私の解決策の夢
元気印で志あり、経済に明るい高齢者は、是非その英知を結集して、財政健全化策を考えて頂きたい。勿論、この定常経済でさえも努力無くして維持できないし、またどこにイノベーションの種があり、思わぬ成長の芽が出るか分からない。是非ゆとりある専門知識と経験知豊富な高齢者も、成長のため、少なくとも定常維持のため尽力すべきです。ただし、日本経済全体のバランスシートで見ると、国債もほとんどは自国民が買っており、かつ資産(個人、企業、政府/国内、海外)は現在の処負債を上回っている。私の試算では、国家資産―負債=1,000兆円か?。だから今のうちに赤字出血を止め、造血をして健康な経済体質に改善すべき。さもないと(労働力)人口減少では資産を食いつぶして国家財政破綻は必定です。

そこで私の素人アイデア。
“投資国家に変身する”。裏付け理論、I.ウオーラステインの世界システム論によると、資本主義は農業・牧畜業から鉱工業、さらに貿易・商業、最終的に金融業に産業発展すると言う。発展の際、前段階産業は衰退して新参業に変遷すると言う。米国は典型例です。世界一を誇った鉄鋼・自動車産業は衰退し、今や米国は新産業GAFA勃興で、情報と言う無形の価値で飯を食っている。日本でも同様で、韓国、中国、台湾に鉄鋼、造船、家電も半導体も追い付き追い越され、その先を行く新産業転換ができず苦戦している。しかし資本主義の産業変遷の法則上、仕方がない面があるのです。ウオーラステイン理論に学んで、同様の経験をした大先輩イギリス、オランダ、勿論アメリカに倣うべきです。今や古い産業は衰退し、現在はそれぞれ巨大な金融立国ですよ。ロンドン、アムステルダム、NYは世界の金融センターです。

 そこで日本もこの、1,000兆円もの国富の何割かを基金(ファンド)に世界の生長点に、投資して世界の経済成長に貢献し、かつそこから得られる資産運用益を国民の貯蓄の利息として還元すると言う夢です。たとえば2%の利息を国民の貯蓄に付けてくれれば、年金の将来危機即ち高齢者の年金を現役世代が担う賦課方式では、少子化の現状では騎馬戦型から、肩車型になり若者一人の肩に老人一人が跨る、何とも申し訳ない状態になるが、利息2%が高齢者貯蓄につけば、大いに年金問題が楽になるのです。

 既にメガバンクや保険会社、証券会社等機関投資家は、経済低調な国内投資から好調な地域の海外投資にシフト。そこから得られる貿易外収入は貿易収入を上回っています。貿易収支は赤字ですが、経常収支が黒字なのです。今や日本は貿易立国ではなく、金融立国に成りつつある証拠です。また年金基金も「市場のクジラ」と呼ばれる世界最大の機関投資家GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人、2001年設立)を運用し、160兆円の原資を以って、途中損益経験しながらも20年間で100兆円もの巨額運用益を得ています。

 私のアイデアは、勿論個人や企業の海外投資も、GPIFもいいし、子ども達にも学校で金融教育を施すべきです。しかし、オイルマネー運用のアラブ諸国や、中国、ロシヤ、マレーシア、シンガポール、ノルウエーの様に、何らかの形での“ソベリン・ファンド”(Sovereign Wealth Fund,「政府系ファンド」「主権国家資産ファンド」「国富ファンド」、政府出資の政府系投資機関運用ファンド、主に政府部門の外貨建て余剰資金を原資とする)を立上げ、GPIFに倣って運用益を上げ、赤字国債返済や年金基金繰り入れ等、使い道はいくらでも考えられます。
その際大切な事は、儲かる事なら何でもいいのでなく、倫理的スチュワードシップ・コードを設ける事です。欧米の強欲資本主義の様な卑劣極まる税逃れのタックス・ヘイブン(租税回避地)を避ける。六方よし(「六方よし経営」藻谷ゆかり:近江商人の(売り手よし、買い手よし、世間よし)三方よし+(作り手よし、地球よし、未来よし)六方良し)精神の確立による、株主中心資本主義からステイク・ホルダー(利害関係者中心)資本主義への転換。特に最近の投資指標、SDGs(持続可能な開発目標)、SRI(社会的責任投資)、ESG(環境、社会、企業統治)理念(パーパス)重視企業への投資。

 要するに儲け第一主義の“ジェントルマン強欲資本主義”から、聖書の説く隣人愛を地球愛にまで広げた倫理重視の“ピューリタン・ジェントルマン経済”(「ピューリタン・ジェントリ論の射程」岩井淳、静岡大学人文学部人文論集、拙著「時のしるし」p.139,140)への脱皮です。これこそ従来私の説いてきた新しい資本主義のエートスであり、ウエーバー・大塚久雄の説く、本来の近代資本主義の精神に立ち返る事なのです」M.ウエーバー)。ソベリン・ファンドについての、経済学者野口悠紀雄の著作から頂いた、アイデアもありますが、後日述べます。

 そして日本の金融センターを大阪にする事です。東京一極集中は危険ですし、大阪は18世紀世界最初の公設コメ先物市場を開設以来、天下の台所であった金融の歴史があります。メガバンク、大証券会社の大阪発祥は多いのです。大阪も万博と言う一時に掛けて、パンデミックで失敗した東京オリンピックの二の舞を繰り返すリスクより、またIR誘致・結局ギャンブル、観光頼みではないですか、コロナ禍でそのリスクは明らかです。地道な日本やアジア、世界の将来を見据えた“ピューリタン・ジェントルマン経済”方針に立つ、世界の金融センターの一つになる夢を持つべきです。世界の人材が集まり日曜日に礼拝できるキリスト教会は、大阪にはたくさんあります。

 第三の負の遺産、環境問題

 第三の負の遺産は、環境問題です。これは私の最新電子書籍出版作「環境神学」(発売予定:2021年12月1日)に詳しく論じています。地質年代としての現代が「人新世代」と呼ばれるようになった。それは、地球40億年の自然史の中で、初めて自然の作用でなく、人間の作用による地球環境の大変化が起こり始めた。しかもそれは人間が悪役となって、地球環境のホメオスターシス(恒常性維持機能)を破壊し、人間を含む生命を滅亡に至らせる地質年代の到来だ、と言うものです。

 18世紀半ば英国から始まった産業革命以来の人間の文明が、二酸化炭素を大気中に大量に放出し、大気温の急激な上昇が海洋・陸地・大気を問わず致命的な環境破壊をもたらし生物絶滅の危機に地球は直面している。日本は早くから環境問題に取り組み、また省エネに努力し、環境問題優等生ですが、それでもグレタ・ツンベリさんら若者が立ち上げた“Friday for Future”運動に発するヨーロッパの危機感と、具体的なグリーン・エコノミーの強力な推進に遅れを取っています。同じ団塊の世代の子供ミレニアル世代や、孫Z世代でも内向きな日本の若者たちの問題意識は身近なものが多く、地球の将来まで考えが及びません。ここはシルバー・デモクラシーを標榜する、元全共闘世代の元気印団塊世代が多いに環境問題解決の夢実現に尽力するべきです。なぜなら、団塊の世代は自分たちが作った醜悪な環境ではなく、美田を子孫に残す責任があるからです。

 その精神的裏付けは、自然法爾、山川草木悉皆成仏(天台本覚論)等、人間と自然との一体性を説くわりに環境問題に無力な仏教は当てにならず、自然宗教の神道も地球環境問題には無策です。ひとりキリスト教は環境問題でも聖書から、力強い環境問題への人間の責任と役割のメッセージと夢を発し、現代の最大課題に貢献しているのです。詳しくは前記拙著をご覧くだされば幸いです。

 かくして、120才まで神のミッションに生きたモーセにならい、元気印のシルバー世代は、趣味に生きるも、ボランテイアも大いに結構ですが、自分達が残した負の遺産を思い出し、これを清算して豊かな美田を子孫に残したいと思われませんか。西郷を高く評価したキリスト者内村鑑三は著書「後世への最大遺産」で、勇ましく高尚な生涯こそ、後世への最大の遺産であると申しました。それは自利を超えた、利他の神のミッション(使命)に身を捧げる夢に生きる事にほかなりません。

 誤解の解消

 最後に蛇足ながら誤解を解きます。かつて熊本バンドの一員であり新島襄の弟子として高名でありキリスト教の巡回伝道者であった金森通倫牧師(石破茂議員の曽祖父)は、晩年どう道を間違ったか棄教し、大蔵省嘱託となり貯蓄の勧めに全国を巡回した。もっとも後に救世軍、ホーリネス教会に復帰したそうですが。私も前期高齢者まではキリスト教伝道者の端くれであったが、後期高齢者になってからは社会経済問題ばかり説いて、晩節を汚したと思われるのは心外です。魂の救いに最大の関心を寄せる伝道者は、同時にこの世の責任も果たすべく、キリストの福音が個人の魂のみか、社会・自然環境をも救済する力があると、説いているのです。

「カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返しなさい」(マルコ12:17)とイエス様がおっしゃった様に、魂と社会・自然環境の救済という2焦点を持つ「楕円思考」(内村鑑三、大平正芳)です。「世間は虚仮、唯仏のみこれ真なり」(「維摩経義疏」聖徳太子、「世間虚仮、唯仏是真」)と言う、世間は無意味だ、出家して解脱成仏の一点を目指し、社会・自然環境改善に無関心な「円思考的」仏教的救済とは違うのです。
次に福音による救済の深さと広がりを説きます。

最大の負の遺産、罪の負債と解決

 ここまで団塊の世代の負の遺産と解消責任の夢を描いてきましたが、聖書によればそもそも全ての人の最大の負債は罪なのです。神の愛に背き、自己中心の生き方をした結果(これを原罪と言う)、個人も、家庭も、社会も、そして地球環境までも悪に汚染し、罪の負債は積もりに積もって破産寸前、まさにノアの洪水直前(創世記6:11,12)の様に、神の審判が迫っているのです(ローマ2:5,これを現行罪と言う)。

 一人〃、家庭も、社会も、方向転換し(これを悔い改めと言う)、神の愛に立ち帰り、神の備えられた神の御子イエス・キリストの十字架上の罪の贖いを受け入れ、払いきれない罪の負債を身代わりに払っていただくのです。その時、人は利己的罪が赦され、利他的愛に生きる様に解放されるのです。多くの罪を赦された者は、多く愛するのです。その愛は家庭に、社会に、自然環境に大きな変革をもたらすのです。このキリスト教の使信を福音と言います。今こそ人は福音を受容して個人から始まり、地球を救うミッションに共に歩み始める時なのです。M.L.キング牧師と共に和したいものです、“I have a dream !, 私には夢がある”と。

「すべての人は罪を犯したため、神の栄光を受けられなくなっており、彼らは価なしに、神の恵みにより、キリスト・イエスによるあがないによって義とされるのである」(ローマ3:23,24)