週の真ん中ストレート(12)共産党の日仏比較ー田口 望

田口望
田口望

 

 

 

田口 望
大東キリストチャペル 教役者
大阪聖書学院 常勤講師
日本キリスト者オピニオンサイト -SALTY- 論説委員

ヨーロッパの共産党

前回、私は、左のすべては悪いわけではなく、共産主義と名が冠していてもキリスト教主義に立脚しようとしているものすらあることを案内しました。

「週の真ん中ストレート(11)良い左、ダメな左」

実際に世界に目を転じてみましょう。資本主義陣営、西側諸国にあり「共産党」で政権与党入りした国だってあるのです。小沢一郎氏が昨今提唱する野党の比例代表統一名簿作戦「オリーブの木」はもともと、イタリアがその典拠です。

イタリアの左派連合政権で、その中核をになったのは左翼民主党でその前身はイタリア共産党でした。また、フランスでも1997年の保革共存政権で社会党のジョスパン内閣にフランス共産党は2名の閣僚を送り込んで政権の一翼を担いました。こういう事例を見ると日本でも日本共産党と組んで選挙協力、はたまた共産党を含めた連立政権ってありに見てくる人もいるのでしょうが実際はどうなのでしょうか?

フランス共産党旗(左)と日本共産党旗(右)
フランス共産党旗(左)と日本共産党旗(右)

もはやマルクス主義でも共産主義でもないフランス共産党

 さて、このフランス共産党は名前こそ「共産党」とついていますが、1994年に党内改革を行ってレーニン主義の看板をおろし、暴力革命を否定し、労働者階級による独裁(プロレタリア独裁)を否定し、党内独裁(民主集中制)をあらためて党内にいろんな考え方をもつことを許容しました。このように共産主義らしい金看板を捨てた共産主義をユーロコミュニズムといいます。これについてはまたの機会に詳述します。

 とにもかくにも、党内独裁がなくなりましたので、現書記長を支持する主流派もいれば、前書記長派、元書記長派もいます。そのような人のつながりでできる派閥もあれば、中にはガチでヤバい反キリスト教的な本家本元のマルクス主義を堅持している往年の共産党員もフランス共産党内にいるにはいます。が現在ではそのような党員はフランス共産党内では10%しかいないことも明らかにされています。

今やフランス共産党は共産党とは名ばかりで、平等を大事にする人はキリスト教共産主義だろうが空想的社会主義だろうが、修正資本主義(改良主義)だろうが認められる、「左っぽい政治思想なんでもござれ党」なのです。そして、こうなってしまった共産党はもはや恐れるに足りません。党内で民主的手続ぎがある以上、マルクス主義は権力を握れない…そういう思想なのですから

  • 党内主流派:現在の社会党共産党との共闘路線を支持する現職のピエール・ローラン書記長派 70%
  • 保守派:ジョルジュ・マルシェ 元書記長派 数パーセント
  • 反撃派:トロツキスト 反主流派 約10%
  • ロベール・ユー派 社会党だけでなく、環境政党との民主連合政府を模索。数パーセント
  • 改良派:党内右派 改良主義者による派閥。フェミニズム、エコ社会主義、ユーロコミュニズムを指向する。この派閥のメンバーの多くはフランス共産党を去ったが、かなり昔から共産党内部に深く関わってきた派閥であるとされる。ジョルジュ・マルシェによるソビエト連邦の意向に常に従う保守的な党運営や、民主集中制自体にかなり批判的であったとされている。
  • 正統派:1990年代以降のフランス共産党の変貌(民主社会主義政党化)に反対し、伝統的なマルクス主義に忠実なグループ。この派閥は現在のフランス共産党が政党連合「左翼戦線」を組んでいることを手ぬるいとしており、また、左翼戦線の代表ジャン=リュック・メランションを快く思っていないとされる。社会党との連携にも反対している。また、欧州連合やユーロからの脱退を支持している。このグループに属していた一部の党員はフランス共産党を離党し、新党を立ち上げた。このグループの党内比率は約10%。

日本共産党はガチのマルクス主義政党

 さて、前置きが長くなりましたが、フランス共産党内のような尺度で、主流派や反撃派、改良派などの色分けをもし、日本共産党にすると何派が何パーセントくらいになるのでしょうか?答えは簡単、以下のようになります。

正統派:ガチでヤバイ マルクス主義の共産主義者 100% 

以上

 お判りいただけただでしょうか?
後述しますが、最近の党の動きから感じる感想、フィーリングといった曖昧なものではなくて、党の公式文書からきちんとファクトチェックすれば、日本共産党は上記赤字のような結論にしかなりえません。だからこそ、私は「日本共産党とクリスチャンが共闘することは絶対にありえない」と何度も何度も申し上げているのです。日本共産党がイタリア共産党やフランス共産党のようであれば、何もここまでの労力を使ってまで、実名をもって、その共闘に反対したりはしません。

 特に「クリスチャンと日本共産党の共闘ってアリかも?」って誤認させるような記事を連発しておられる、日本のクリスチャンメディアの諸兄には重ねて、重ねてそういった軽率な行動はとらず、ファクトチェックに基づいた真実な報道を切に求めます。

日本共産党の公文書は自らをマルクス主義政党であることを隠さない

 まず、日本共産党は現在(2004年改訂)の党綱領の1章1節で「日本共産党は、わが国の進歩と変革の伝統を受けつぎ、日本と世界の人民の解放闘争の高まりのなかで、1922年7月15日、科学的社会主義(マルクス主義)を理論的な基礎とする政党として、創立された。」と定義し、3章8節では「日本共産党は、科学的社会主義(マルクス主義)を擁護する自主独立の党として~中略~断固としてたたかいぬいた。」としています。
つまり、党の公式文書上あくまでも自党をマルクス主義を基礎とし、マルクス主義を守る党と規定しているので、党内でマルクス主義以外の政治思想を持ち合わせることは、それ自体反党行為であり、党内にいること自体許されないことになっています。

 さらには綱領に基づく、日本共産党の規約でも、2条では「党は、科学的社会主義(マルクス主義)を理論的な基礎とする。」と定義しています。また、規約5条7項では党員の義務として「党大会、中央委員会の決定をすみやかに読了し、党の綱領路線と科学的社会主義(マルクス主義)の理論の学習につとめる。」とあり、規約21条5項では党大会の機能として「科学的社会主義(マルクス主義)にもとづく党の理論活動をすすめる。」とし、規約40条4項では党支部の義務として「党員が意欲をもって、党の綱領や歴史、科学的社会主義(マルクス主義)の理論の学習に励むよう、集団学習などにとりくむ。」とあります。
なんと恐ろしいことでしょう。この政党は・・・もはや政党というより教団ですが・・・党だけでなく、党員も、党大会も、党支部もマルクス主義以外の政治思想は一切認めないと宣言し、またマルクス主義の修養を義務付けているのです。

 そのうえで、党内のいろいろな考え、派閥を持つことを一切認めていません。ソ連共産党ゆずりの党内独裁(民主集中制)を今も堅持しているのです。皆さんも志位派 とか小池派 などという党内派閥などマスコミの報道でも聞いたことがないはずです。当たり前です。宮本元委員長の体制を100%踏襲したのが不破哲三前委員長であり、不破哲三前委員長の意向を100%踏襲したのが志位委員長です。不破委員長が数年前に党の綱領を改定しましたが、表現方法を改めただけで、根幹部分を何も変えていません。
例えて言うなら、猛毒の「青酸カリ」を青酸カリとは書かずに「シアン化カリウム」と書き換えただけなのです。毒性も毒の分量もなんにも変わっていません。知らない人が見れがカリウムだからミネラルの一種で体に必要な栄養かなと誤導されるでしょうが、その内実たるやキリスト者にとってはこの上もないほどに猛毒なのです。

 「共産主義」を「社会主義」と書き換え、「社会主義革命」を「社会主義的変革」と書き換え、「私有財産の否定」を「生産手段の社会化」に書き換えただけで、相も変わらず「敵の出方論」とよばれる暴力革命路線を否定しないでいます。党内では絶対に異論を認めず、異を唱えるものをトロツキストといって排撃し、除名します。一方、対外的にはまるで改良主義の穏健な左派政党になったかのようにふるまうのです。「穏健」な政党であるように装うことを党員に「厳格」に強制するのです。党規約の5条の5項には党員の義務として次の一文があります。

「党の諸決定を自覚的に実行する。決定に同意できない場合は、自分の意見を保留することができる。その場合も、その決定を実行する。党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない。」

 そう、この政党は自分の意見が党の指導部と違う場合、その違う意見を党外に発表することすら禁止されているのです。
まるでカルト化した教団が内部では信者に対して破門をちらつかせながら、教祖様へ絶対服従させて、その一方では教勢拡大のために対外的には「我々は自由で幸せですよ」と作り笑いをしてパンフレットを配ってくる…信者にはその自由な理想郷を描いたパンフレット配りをノルマとして強制する・・・そんな姿とダブって見えるのは私だけでしょうか?

日本のキリスト者がキリスト者として日本共産党にとるべき態度 

 私が日本共産党を批判すると、
「東西冷戦期ではあるまいし、古い古い、現状をよく見ろ」という容共的なクリスチャンがいるのですが、実際は、そういう容共的な人物こそ、フィーリングだけで、何をもって共産主義が危険なのかや、危険な左翼とそうでない左翼を区別できていないのではないでしょうか?
世界の共産党の実情も知らなければ、日本の共産党の旧態依然とした体制ついて精査していない様に感じるのです。容共的なキリスト者こそ党の公文書からファクトチェックを行うなど最低限のことを怠っているのではないでしょうか?

 本来なら、日本共産党がマルクス主義政党の特徴である党内独裁(民主集中制)を保持している間は、キリスト者こそ彼らのいかなる甘言も聞いてはなりません。そして、キリスト者こそ日本社会に対して警鐘を鳴らし続けるべきなのです。それこそが、前世紀に共産主義の名のもとに最も多くの同信の者を殉教者として失ったキリスト者の責務と思えるのです。

田口望