一森牧師事件を報じず、「従軍慰安婦」という不適切用語を使い続けるクリスチャン新聞を批判する −西岡力−

<写真> 『正論』6月号(2021年)

 

 

 

 

西岡力
日本キリスト者オピニオンサイト -SALTY-  主筆
救う会(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)会長

一森牧師事件を報じず、「従軍慰安婦」という不適切用語を使い続けるクリスチャン新聞を批判する

 日本基督教団の教職である一森文彰(いちもり ふみあき)先生は、北朝鮮による拉致被害者家族の声を聞いて解決のために、救う会が主催する集会や街頭署名運動に参加されていた。私も集会後の懇親会などで何回か一森先生とお会いし、当時先生が牧会していた教会の礼拝に出させていただいたりした。

 ところが、数年前、同教会を辞した後、母校の関西学院大学の神学部教授会が拉致問題編取り組みを理由に新しい赴任先斡旋を拒否した。事実上、牧師職のクビだ。

 先生はSNSで「拉致被害者全員奪還を口にしたらクビになった日本基督教団牧師です」と自己紹介をして発言を続けていた。産経新聞社が発行する論壇誌「正論」6月号に、上野庸平というルポライターが「拉致解決を訴えてクビ キリスト教団の体質」というよく調べた記事を書いた。記事では先生のインタビューだけでなく、関西学院側の関係者にも取材してバランス良く実情を伝えている。なお、上野氏はクリスチャンで、なんと日本基督教団の会員だそうだ。

 ぜひ、この記事を多くのキリスト者が読んで、一般社会から日本の「キリスト教」がどのように見えているかを自覚して欲しい。私は本当に日本人キリスト者として恥ずかしい。日本基督教団の中から、なぜ教団幹部を批判する声が出ないのかと強い怒りを覚える。

一森先生はこの記事が出た後、SNSにこう書き込んだ。

〈拉致被害者全員奪還を公にしたから牧師をクビになったという「正論」の記事、上野庸平さんが書いてくださったのですが、記事を読めば読むほど、何故これが「キリスト新聞」やキリスト新聞社の雑誌、新教出版社の「福音と世界」などに載ってないのか。或いは「クリスチャン新聞」や「百万人の福音」やら、「カトリック新聞」なども含めたキリスト教メディアに無いのか不思議なくらいの内容なのですよね。内容からするとこっちに載ってて然るべきだと思うんですよ。
ちなみに上野庸平さんは 日本基督教団の信徒さんです。教会名聞いて「え、それ大丈夫なんですか?」と聞いてしまいましたよ、僕は。〉

私はこの書き込みを読み、SNS上で次のような感想を書いた。

<一森先生に拉致問題への取り組みを理由に、新任地を紹介できないと決めた教団の幹部の人権感覚には驚愕します。また、このニュースを報じない、いわゆるキリスト教メディアとはあまりにもよって立つ価値観が違いすぎて同じキリスト教信者であるといわれても、会話が成立しないと絶望してすでに数十年になります。
 しかし、記事の筆者の上野さんは日基の教会員だと聞きました。上野さんとならぜひ会話をしてみたいですね。
 腹が立つのでいわゆるキリスト教メディアは必要最小限(自分が取材を受けたなど)以外、目にしないと決めて、やはり数十年になります。それでも信仰生活を送るのに困りません〉

 いわゆるキリスト教メディアの政治的偏向は最近に始まったことではない。30年以上前から日韓両国の関係を悪化させてきた慰安婦問題についても偏った報道を続けてきた。

 

 ここで1つの例を挙げたい。

 菅内閣は4月27日に維新の会の馬場伸幸議員の質問主意書への答弁書で、「従軍慰安婦」という用語は軍による強制連行があったという誤解を招くおそれがあるから使うことは適切ではない
という、閣議決定を行った。

その中には次のような重要な指摘が含まれていた。

〈政府としては、慰安婦が御指摘の「軍により「強制連行」された」という見方が広く流布された原因は、吉田清治氏(故人)が、昭和五十八年に「日本軍の命令で、韓国の済州島において、大勢の女性狩りをした」旨の虚偽の事実を発表し、当該虚偽の事実が、大手新聞社により、事実であるかのように大きく報道されたことにあると考えているところ、その後、当該新聞社は、平成二十六年に「「従軍慰安婦」用語メモを訂正」し、「『主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した』という表現は誤り」であって、「吉田清治氏の証言は虚偽だと判断した」こと等を発表し、当該報道における事実関係の誤りを認めたものと承知している。〉

 ここで言われている「大手新聞社」は朝日新聞社のことだ。朝日の虚偽報道により「(慰安婦が)軍により「強制連行」された」という日本国と先人の名誉を著しく傷つける虚偽が広く流布してしまったと断定して、政府として朝日の責任を追究しているのだ。その上で、菅内閣は「従軍慰安婦」という用語は使わないと次のように明確に閣議決定に書いた。

〈このような経緯を踏まえ、政府としては、「従軍慰安婦」という用語を用いることは誤解を招くおそれがあることから、「従軍慰安婦」又は「いわゆる従軍慰安婦」ではなく、単に「慰安婦」という用語を用いることが適切であると考えており、近年、これを用いているところである。〉

 そして最後に朝日の責任により国際社会に流布してしまった虚偽を是正するために、「これまで以上の対外発信を強化する」と菅内閣の歴史問題に対する基本姿勢を明記した。

〈引き続き、政府としては、国際社会において、客観的事実に基づく正しい歴史認識が形成され、我が国の基本的立場や取り組みに対して正当な評価を受けるべく、これまで以上に対外発信を強化していく考えである〉

 これを読んだある保守系の雑誌の編集者から西岡先生が書いたようですねと言われた。もちろん私が書いたのではないが、しかし、私が長い間主張してきたことがそのまま書かれていることは間違いない。慰安婦問題に取り組んで三十年が経ち、特に、キリスト教界の中では激しい非難にさらされてきたが私としては、この閣議決定を見て感無量だ。

 ところが、一森先生の事件を取り上げないという不誠実な姿勢をとり続けているキリスト教メディア、具体的には、いのちのことば社が発行する「クリスチャン新聞」は、昨年12月まで「従軍慰安婦」という不適切な用語を使い続けている。

 「クリスチャン新聞」のサイトで検索してみると「従軍慰安婦」という用語を使っている記事は15件出てきた。一番新しい記事は、2020年12月31日の「最後の献金ハルモニに届け 関西クリスチャン戦責告白者会閉会」という次のような書き出しで始まる記事だ。

〈「関西超教派クリスチャン戦争罪責告白者会」が2020年12月に25年間の働きを終えた。長年同会の代表を務めた故・小島十二氏(元日本イエス・キリスト教団芦屋川教会牧師)によって、太平洋戦争における日本人の罪の告白と謝罪を重ね、福音をもって和解と平和の実現を目指す同会が設立された。毎年平和祈念集会を開くとともに韓国を訪ねて「元従軍慰安婦」被害者(ハルモニ)への謝罪を続けた。18年の小島牧師の逝去後活動を停止していたが、最後の献金をハルモニに届けて25年の活動に幕を下ろした。小島牧師の家族から届いた最後の活動報告を紹介する〉

 クリスチャン新聞編集部は、朝日新聞が軍による強制連行があったと書いたことを虚偽だと取り消し謝罪したことをどう考えているのだろう。朝日の謝罪の後も、誤解を招くと政府に批判されている「従軍慰安婦」という用語を使い続けている。

 少なくとも菅内閣の閣議決定があったのだから、それについて編集部としての考えを示す社会的責任があるのではないか。

 絶望ばかりしていても日本のキリスト教界が良くならないので、今後は、キリスト教メディアについて是々非々で批判を加えていくことが必要だと考える。