自分の国を守るために〜戦時国際法の理解(1)〜 −後藤望−

・写真:リンゴ園_2018-1014(高山市国府町にて)

 

 

後藤 望

SALTY論説委員
元 航空自衛隊(救難航空隊)救難員
岐阜愛のキリスト教会 会員
鍼灸院 経営
JTJ神学校  在学中

自分の国を守るために〜戦時国際法の理解(1)

 何だか最近、南シナ海、東シナ海、台湾海峡、インド国境などと、きな臭い感じがしてきました。

自分の国を守る事については、戦争法規、いわゆる戦時国際法の知識が必要です。少しこれに関して書き出してみましょう。

1. 戦時国際法とは

 戦時国際法とは別名 戦争法、武力紛争法、国際人道法とか呼ばれます。

 戦争とは避けられないものという前提から、いかにフェアに戦うか、戦い方はどうするのか、誰と誰が戦うのか、戦う力を失った人、戦う力のない人の扱いはどうするのかというような事を規定した国際法です。

勿論これは遠い根拠を探れば、紀元前12世紀のハンムラビ法典の精神から発しているのには間違いないでしょう。「目には目を、歯には歯を」の条文が有名ですが、この精神は「過剰報復の禁止」にあるわけです。

 大きな括りから考えてみれば、フェアな戦い、戦い方、戦闘員・非戦闘員の規定などは「過剰な事は不法である」という趣旨が根底にあるからだと思われます。こういう考え方が西欧での決闘のマナーにつながり、それが近代の戦争法に繋がっている流れがあります。

このように根底に流れるものが「道徳」「倫理」である以上、その流れを共有する同士でなければ戦争法自体が成立しません。

 現代においてはこの国際法がしばしば無視されて現場が大混乱に陥っていますが、その理由がここにあります。「俺たちはその道徳・倫理に縛られない」と宣言してしまえば、立場上はその規定外に立つことになるからです。また、全くその逆に、戦争法を知らない民族に戦争法規を押しつければ、それを楯に好き勝手がやれるわけです。

いうまでもなく前者は中近東でのISや、アフリカでの子供兵を使ったりするやり方です。

後者の明確な例は1899年の米比戦争で「ゲリラだから保護しない」と10才の子供たちをも集めて処刑したアーサー・マッカーサー将軍のやり方です。これは「ゲリラは保護規定を受けられない」としたハーグ陸戦条約に基づいていますが、何とこの条約が採択されたのは1899年なのです。

 このように一方の無知、双方の無知、無知に付け込んだ宣伝戦、無知を利用した煽動・宣言など、近代・現代ではますます混乱しています。米比戦争、インドネシア独立戦争、南京事件、ベトナム戦争、各地の内戦での混乱はこれに起因することが殆どです。

2. 戦時国際法の基礎  ジュネーブ条約

 戦時国際法は前述の通り、人類の長い歴史の中で少しずつ積み上がってきたものを集大成した法規ですから、国際会議が開催されて、いついつの時点から参加国が批准して効力を発揮・・というような性質の法規ではありません。

今までの人類の歩みの中で、その都度その都度決められてきた人道的な取り決めから決まってきた法規を総称して呼んでいます。

 その戦時国際法の基本的骨格はジュネーブ条約ハーグ陸戦条約の二つです。

ジュネーブ条約は、1864年に発効しています。

これはスイス人の銀行家のアンリ・デュナンという人が、イタリア独立戦争の戦傷病者の扱いに衝撃を受け「ソルフェリーノの思い出」という本を出版したのが切っ掛けとなって、戦傷兵国際救済委員会(後の赤十字国際委員会)が作られ、それが中心になって、「戦争傷病者の状態改善に関する条約」が締結されたわけです。

 いうまでもなく、戦争によって負傷して戦闘能力を失った兵士が、凄惨な報復を受けたり、傷病を放置されて非人道的な扱いをうけていた状況を改善しなくてはならない、その為にはどうしたらいいのかという条約です。

負傷して無抵抗になった兵士を殺傷するのは勿論過剰報復ですが、傷病を放置したりするのも間違いなく過剰報復の一種には違いないからです。

 ちなみにこのデュナンの始めた戦傷兵の保護の運動は、勿論その前にあったクリミア戦争でのナイチンゲールの活躍に触発されたものだろうことは、いうまでもありません。フローレンス・ナイチンゲールは赤十字活動にはタッチしていませんが、その二年間の看護婦活動で、時には政府と対立もして、華々しい活躍をして今にいたる名声があるわけです。

ジュネーブ条約の規定は、最初に「戦争傷病者の待遇改善」が規定され、その後ハーグ陸戦条約などの文面を取り入れて何度も改定がなされています。

 今では1949年に発効したジュネーブ諸条約、追加議定書などで戦時国際法の細かい様々な規定がなされています。ですのでジュネーブ諸条約・追加議定書の内容は、ハーグ陸戦条約と重複するところが多く、きっちりと分離しているわけではないようです。

3. 戦時国際法の基礎  ハーグ陸戦条約

 ジュネーブ条約に続いてハーグ陸戦条約の概要を話します。

 どうやらこの条約の発端は化学兵器の禁止、毒ガスの使用禁止をする事だったようです。ジュネーブ条約のほぼ50年後の1899年に、オランダのハーグで話し合われて条文化したものです。

内容は交戦者の資格・定義、非戦闘員の定義・資格・義務・権利、捕虜の定義・権利・義務、占領地における軍の権利・義務、兵器の制限など、細かく規定されています。陸戦条約につづいて海戦条約、空戦条約も討議されているようですが、発効・批准とかにはいたっていないようです。

 注目すべきことは、この条約で縛られるのはあくまで条約批准国同士である事で、片方が批准をしていなければ条約違反にはならないことです。とは言えこの条約はジュネーブ条約と並んで、現代では戦時国際法の骨子となっていて軍事の常識となりつつあるので、これに違反することは非難の対象になることは間違いありません。

 いずれにせよ人類は長い戦いの歴史の中から「過剰報復の禁止」という観点から始まって、やむを得ず戦うにしても人道から逸脱しないというルールを必死に探ってきています。婦女子も皆殺しだった古代から、非戦闘員という考え方が生まれてきた近代の流れから、現代のこの戦時国際法という考え方に至っています。

ただし最初に述べたように、ジュネーブ条約、ハーグ陸戦条約からなる戦時国際法の根幹は道徳であり倫理です。

「その道徳・倫理には縛られない」と宣告してしまえば、どうする事もできないのです。それが今のISや、各地の内戦での非道な行いやテロリズムに繋がっているわけです。

 しかしだからと言って、同じ行動をするわけには行かない。やはり地道に戦時国際法を教育するしか方法がない、ほぼ人類の普遍的価値観になってきた「人道」という事を教育するしか、他に方法がないのです。

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坊津カソリック教会(長崎市)_2015-0510

*参考図書

 

「戦争と国際人道法」 2015年10月16日 井上忠男 東信堂出版
「国際人道法」 小池政行 朝日選書
・「国際人道法」 モーリス・トレッリ著・斉藤恵彦訳  文庫クセジュ
・「民間防衛」 スイス政府編 書房
・「国防の常識」 鍛冶俊樹 角川学芸出版

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後藤望

・プロフィール
1949年1月生まれ 七人兄弟の末弟として誕生。
二歳前に召された姉の名前をそのまま貰い、二人前の生命力を受け継ぐ。
航空自衛隊で「FOR OTHERS MAY LIVE」の救難航空隊の救難員を勤務。(20年間)
岐阜愛のキリスト教会 会員
鍼灸院 経営
現在JTJ神学校で学び中。
好きな聖句は「あなたは立ち直ったら兄弟たちを力づけてやりなさい。」
趣味は車歴60年以上のオートバイ、下手の横好きの声楽、古典落語蒐集、花の写真撮影、筋トレ。
今後の目標はバーチャル教会建設及び、マスターズ陸上で日本記録を樹立する事