自分の国を守るために〜戦時国際法の理解(2) −後藤 望−

・写真:「残し林檎」リンゴ園_2020-1/7(高山市国府町にて)

 

 

後藤 望

SALTY論説委員
元 航空自衛隊(救難航空隊)救難員
岐阜愛のキリスト教会 会員
鍼灸院 経営
JTJ神学校  在学中

自分の国を守るために〜戦時国際法の理解(2)

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4. 戦時国際法の規定  交戦者の資格

 戦時国際法に関して、ジュネーブ条約ハーグ陸戦条約のどの条項がどうとかは、細かすぎるのでここでは取り上げません。気がついた項目を説明しますが、それが両条約のどの条項に当たるのかまでは説明しないことにします。

・交戦者の資格

 交戦する者は「武器をはっきりと見えるように携帯し」「制服または徽章を見えるように装着し」「指揮官に指揮されている事」が必要です。これは軍隊構成員だけを意味しません。民兵、志願兵でも交戦者と認められますが、最低限「武器の保持」と「指揮されている事」が必要でしょう。
この場合 階級章などの徽章は、実際には遠くからは見えないことが多く、若干有名無実的になっています。

 ここで注意しなくてはならないのは、民間人は交戦者にはなれないという事です。上記で定義された人員のみが戦闘員であり、それ以外の民間人は非戦闘員です。非戦闘員は戦闘に参加してはいけないのです。(衛生兵は非戦闘員ではありません、後で説明します)

 つまり皆さんが戦場に巻き込まれて人道上許せないような行動を見たとして、思わず憤激の余りに手を出してしまいたくなる事があるとします。しかしこのような場合は決して手を出してはいけないのです、それは「非戦闘員の隠れ身をきて騙し討ちする行為」と見做されます。

 後で説明に登場する捕虜の資格・義務・権利というのが細かく定められていますが、「非戦闘員の隠れ身をきて騙し討ちする行為」をする者に対しては、一切の保護規定があてられません。裁判抜きで即決で銃殺されてもやむを得ませんし、拷問禁止の条項も適応されません、なんでもアリの憎悪の対象になってしまうのです。

 ここまで説明すればお判りになると思います。

 南京事件で問題になった便衣兵は、その逆バージョンなのです。つまり敗退が濃厚になると制服・武器を捨てて民間人に化けて逃走しようとする、これは明確な戦時法違反なのです。

 大きな問題はこの時点で国民党政府がジュネーブ条約・ハーグ陸戦条約を批准していたかどうかです。しかし、いずれにしても片方が義務を守らない以上、もう片方が律儀に義務を守る事は難しくなります。しかし残る結果は残虐な行為のみが残りますし、これは格好の宣伝材料になるわけです。

 いずれにせよ鎌倉市程度の大きさの都市で、たった二カ月の間に30万人も殺戮できるかどうか考えても分かります。遺棄された死体をどうするのか、それを考えただけでも到底無理な話である事がすぐに判るのですが、ここはそれを議論する場ではありませんので、疑問を提出するだけで止めておきます。

5. 戦時国際法の条文 捕虜とは

 中華民国はハーグ陸戦条約に調印していました。
日本も調印しましたが、批准はしていません。批准はしていませんでしたが、どうするのかという問いにたいして、準用すると返答したらしく、実質ハーグ陸戦条約、ジュネーブ条約は適応しなければならなかったようです。
東京裁判では日本が非戦闘員を一方的に虐殺したと判定されていますが、中国軍が便衣兵をつかって条約違反を先にしたことは一切不問にされています。

まあ負け戦ってのはこういうものなんでしょう。
愚痴はやめて次にゆきます。

・捕虜の資格・義務・権利

 捕虜を保護するという概念は近代のハーグ陸戦条約からです。

 それまでは婦女子は強姦・奴隷の対象、男性は一般人でも殺戮の対象でした。特にイスラムの戦争法では学派によって違いはありますが、基本的に婦女子は戦利品であって奴隷、男子は民間人であっても殺害して構わない事になっています。イスラム諸国の基本的な考え方は「原点に戻れ」ですから、民間人であっても殺害・奴隷・身代金などは全く問題ないとされるわけです。

 それはともかく、戦闘能力を失った兵員は捕虜とされます。捕虜には戦闘力を放棄する事を意思表明し、守ることが求められます。これに違反することは前述の「非戦闘員の隠れ身をきて騙し討ちする行為」と同等になりますから、一切の情状酌量はされません。

 一方攻撃する側は戦闘力を放棄することを意思表明している兵を攻撃・殺傷する事は禁止されます。また無制限に攻撃することを言明することも禁止されています。

 持ち物を取り上げてはならず、宗教の制限も禁止されます。使役は必要な場合にのみ兵員に限定され、士官は使役から保護されます。食事は抑留した軍隊の構成員と同等のものを与えられなければならず、傷病の治療は同等に扱われなくてはなりません。そして機会を見つけて本国に送還しなくてはならない義務があります。

 問題はこれらの義務は「抑留した側に余裕がある」場合に限定されることです。抑留した側がカツカツの状態で、食料すら余裕がない場合には捕虜を保護すること自体ができない事です。

 POW(プリズナー・オブ・ウォー)の保護規定違反問題が表面化するのは、殆どの場合これがあります。またこの違反問題は大なり小なりどの側にも生ずる事例ですが、勝者は常に敗者の違反を問題にし、敗者は沈黙を余儀なくされることです。

 日本もドイツも連合国の捕虜を虐待したことで裁かれましたが、連合国側が行った残虐行為は一切不問にされました。勿論 東京大空襲、ベルリン大空襲、広島・長崎への一般人への攻撃(原爆)も全く不問にされていますが、それと同じことです。

 これが正義を求める人間の限界なんですね。

 

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*参考図書

 

・「戦争と国際人道法」 2015年10月16日 井上忠男 東信堂出版
・「国際人道法」 小池政行 朝日選書
「国際人道法」 モーリス・トレッリ著・斉藤恵彦訳  文庫クセジュ
「民間防衛」 スイス政府編 書房
・「国防の常識」 鍛冶俊樹 角川学芸出版

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・写真:「残し林檎」 後藤望 撮影
リンゴ園_2020-1/7(高山市国府町にて)

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後藤望

・プロフィール
1949年1月生まれ 七人兄弟の末弟として誕生。
二歳前に召された姉の名前をそのまま貰い、二人前の生命力を受け継ぐ。
航空自衛隊で「FOR OTHERS MAY LIVE」の救難航空隊の救難員を勤務。(20年間)
岐阜愛のキリスト教会 会員
鍼灸院 経営
現在JTJ神学校で学び中。
好きな聖句は「あなたは立ち直ったら兄弟たちを力づけてやりなさい。」
趣味は車歴60年以上のオートバイ、下手の横好きの声楽、古典落語蒐集、花の写真撮影、筋トレ。
今後の目標はバーチャル教会建設及び、マスターズ陸上で日本記録を樹立する事