自分の国を守るために〜戦時国際法の理解(3) −後藤 望−

・写真:「乗鞍連峰」(高山市丹生川町細越にて・2021-1/21)

 

 

後藤 望

SALTY論説委員
元 航空自衛隊(救難航空隊)救難員
岐阜愛のキリスト教会 会員
鍼灸院 経営
JTJ神学校  在学中

自分の国を守るために〜戦時国際法の理解(3)

(2)より  <—–  クリック!

6. 戦時国際法の条文 非戦闘員

● 非戦闘員の定義・義務・権利

 非戦闘員とは戦闘員に組み込まれていない文民をさします。

 勿論一般人であっても交戦者の規定を守ることにより、戦闘員となることができます。その場合には人道に反しない範囲で攻撃・殺傷する事が許されており、傷病によって捕虜となった場合には、保護されるべき対象となって正規軍人の投降者と同じ扱いを受ける権利があります。

 以前は民間人・非戦闘員であっても捕虜(POW:プリズナー・オブ・ウォー)とされましたが、今はそういう扱いは受けていません。
単に難民(戦争難民・国内避難民)として扱われています。

 何度もここで注意していますが、非戦闘員と戦闘員とを行ったり来たりする事は厳に禁止されています。ある時は民間人、ある時は軍人というのでは、現場は大混乱に陥ります。

 これが「民間人の隠れ蓑を来て騙し討ちする背信行為」とされる所以です。この疑いをかけられた場合には、一切の保護規定が準用されません。拷問・即決・虐殺・・・なんでもアリの古代に戻ってしまいます。

 一番恐ろしいのは、こういうジュネーブ協定ハーグ陸戦条約の規定を熟知しながら、自国民間人には教育せず、愛国心・敵愾心を煽って便衣兵の戦いを推奨するやり方です。

 何故ならこの方法は騙し討ちだけに、最大に有効だからです。騙された方は憤激して残虐行為に走ります、そしてそれを今度は「残虐行為をされた」と宣伝材料にするのです。

 またリベラルなメディアは残虐行為の写真に飛びつきます。部数を伸ばすのにはうってつけの材料だからです。こうやって現代の戦闘はますます歪んでしまうのですね。

 ベトナム戦争の時はこの現象が頻繁に見られました。

 ちなみに衛生兵・宗教担当者(チャプレンなど)は非戦闘員ではありません。戦闘をしない兵員であって、衛生職種・宗教職種を離れれば戦闘員として戦闘に参加することが可能なので、非戦闘員ではないのです。衛生兵は特殊なマークをつけ行動しますが、これを攻撃することは禁止されています。

 同時に病院、病院船、負傷者搬送、非戦闘員避難搬送、宗教施設を攻撃することは厳に禁止されています。

 この問題で、大東亜戦争で最大の悲劇になったのが対馬丸事件です。
学童疎開船だったのが、物資輸送も兼ねた、攻撃兵器も備えた軍事輸送船だったのが災いしたのです。これは純粋に学童疎開船であって武装もしない、隠蔽・逃走行動もしないと公表して通報していれば、この惨事は免れたのだと思います。その場合船体を照明し、赤十字マークでも掲げていれば万全だったのでしょうが、なぜそれを行わなかったのかは今でも解明されていないようです。

 病院、病院船、負傷者輸送、非戦闘員避難輸送などに兵員を紛れ込ませたり、物資・武器を紛れ込ませたりすることは「背信行為」として厳しく対応されます。「民間人の隠れ蓑を来て騙し討ちする背信行為」と同じことだからです。ですので病院船、非戦闘員避難輸送船は相手国の臨検を受ける事を受け入れなくてはなりません。

7. 戦時国際法の条文 中立の定義・義務・権利

 今回は私が「お花畑」という言葉から連想した「非武装中立脳内お花畑全開春爛漫」という言葉の「中立の要件」です。

● 中立の定義・義務・権利

 中立とは大変厳しい要件を充たすことが必要とされています。紛争当事国に対して、いかなる援助も提供もしてはいけないことになっています。自国の領域を交戦国に利用させない義務があり、領土・領空・領海を自由に通過させてはなりません。このことにより、WW2(第二次世界大戦)では「永世中立国家」のスイスは連合軍の航空機を190機撃墜していますし、枢軸側の航空機も64機撃墜しています。この事により、スイス空軍の航空機も200機ばかり撃墜されています。

 また物資・兵器などを提供してはいけないのですが、戦争から中立の立場をとる事によって不利益を被っても黙認する義務があります。これはちょっと意味が取りにくい文面ですが、平時に兵器を輸出したり戦略物資を輸出したりする事ができたのが、紛争がおきて中立の立場になるとそれができなくなる事を意味しているようです。

 一例をあげると国としては戦時国債は買うことができなくなります。上記の目的を遂行するために、スイス連邦はごく最近まで国連に加入していませんでした。国連はどうしても大国の影響をうけてしまうからです。スイス連邦が国連に参加したのは2002年になってからの事です。

 実際にスイスでは自衛の歴史から、実に精巧で品質の高い銃が作られています。今はドイツのラインメタル社に売却してしまいましたが、エリコンという高射砲、機関砲は世界最高峰の評価を受けていました。またヘンメリーという競技銃メーカーは今でも世界最高峰の評価を受けています。

 ここまで記載すれば非武装中立などという論理は到底成立しないことがお判りになるでしょう。

 中立宣言をしたら、武力で維持しなくてはならないのです。武装をしないで中立宣言をしたら、途端に攻撃を受けます。領内を通過させろと強談判になって、断れば武力で無理やり行動されます。その途端に対峙する国から攻撃を受けます。

 武装が中途半端で弱ければ攻撃を招くのです。

● 敵国における軍の権力

 最後に「敵国における軍の権力」という事をちょっと補追します。

 ハーグ陸戦条約 第43条:
国の権力が事実上占領者の手に移った上は、占領者は絶対的な支障がない限り、占領地の現行法律を尊重して・・・

 これは占領地(国)の根幹を作っている法律は触ってはいけないという趣旨です。つまり憲法、教育基本法などは国を形作る根幹ですから、改定を押しつけてはいけないという趣旨です。

 日本の現憲法は占領下にあった状態で改憲されましたから、無効だという主張は決して間違いではありません。日本人からの自発的な改憲申し出だったとか、長い間放置しているのだから良いのだとか、色々と反論が出ていますが、それは全部屁理屈です。原理原則を考えれば、今の憲法は無効です。

 この次が面白いなあと思って、蛇足ですが補追します。

 ハーグ陸戦条約 第51条:
取立金はすべて総指揮官の命令書により、かつその責任をもっておこなうものでなければこれを徴収することができない。一切の取立金に対しては納付者に領収書を交付しなければならない。

 これは読んでその通りですので解説は不必要ですが、こういう事を知っておくのと知らないのとでは「占領される」時に大きな違いが出てきますね!!

皆様もどうか「戦時国際法」についての理解を深めるためにも、「民間防衛」を読んでみてください。

「民間防衛」という本は、スイスの義務教育に組み込まれた教育内容を紹介して日本の現状と比較している本です。

 

<3回の連載・終り>

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*参考図書

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・「戦争と国際人道法」 2015年10月16日 井上忠男 東信堂出版
・「国際人道法」 小池政行 朝日選書
・「国際人道法」 モーリス・トレッリ著・斉藤恵彦訳  文庫クセジュ
「民間防衛」 スイス政府編 書房
「国防の常識」 鍛冶俊樹 角川学芸出版

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・写真:「乗鞍連峰」 後藤望 撮影
2021-1/21(高山市丹生川町細越にて)

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後藤望

・プロフィール
1949年1月生まれ 七人兄弟の末弟として誕生。
二歳前に召された姉の名前をそのまま貰い、二人前の生命力を受け継ぐ。
航空自衛隊で「FOR OTHERS MAY LIVE」の救難航空隊の救難員を勤務。(20年間)
岐阜愛のキリスト教会 会員
鍼灸院 経営
現在JTJ神学校で学び中。
好きな聖句は「あなたは立ち直ったら兄弟たちを力づけてやりなさい。」
趣味は車歴60年以上のオートバイ、下手の横好きの声楽、古典落語蒐集、花の写真撮影、筋トレ。
今後の目標はバーチャル教会建設及び、マスターズ陸上で日本記録を樹立する事