キリスト教界の反日的な傾向(2)~その原因を探る~ −中川晴久−

 

 

 中川晴久
東京キリスト教神学研究所幹事
主の羊クリスチャン教会牧師
SALTY-論説委員

 

 前回のキリスト教界の反日的な傾向(1)について、「反日的」というタイトルに対する批判を数人の方から頂きました。ただ、「反日的」という言葉については「予めご了承願います。」とお伝えした通り、この記事は世間から問われる「なぜキリスト教は反日的か?」の問いに答えるためのもの、となっています。この問いに真正面から答えることをしなければ、キリスト教会への「誤解」は、益々大きくなるばかりです。特に、真面目に福音宣教(伝道)活動を行っている日本の多くの教会や牧師たちのみならず、韓国系キリスト教会への風評的被害が拡大するだろう、と私は懸念しています。
 私たちはキリスト者として、一般社会のキリスト教に対する正しい理解へ向け、丁寧な弁明が必要ですし、日本の教会の兄弟姉妹とともに、同じ信仰を持つ韓国の(特に在日の)兄弟姉妹をも守っていかねばなりません。改めてタイトルの「反日的」という言葉の使用について、ご理解を賜りますようお願い致します。

<疑問2 在日大韓基督教会の加盟>

 なぜ”日本の若者たちが耳を貸さないからといって、日本の市民団体の活動に韓国や「北東アジア」の人たちを加え、協力(加勢)してもらわねばならないのか。「北東アジア」とは北朝鮮のことを言っているのではないか。疑問が膨らみます。一つ一つ事実に即し丁寧に理解していかねばなりません。

 まず、【即位巡る儀式「政教分離に違反」キリスト教団体が会見で、中心的な立場で発言していたNCC(日本キリスト教協議会)の総幹事である金性済(キム・ソンジェ)牧師の話を聞き、改めて ”なぜ在日大韓基督教会の牧師が「日本」のNCCの総幹事を務めているのか?”という素朴な疑問から、順番に事実確認をしていきましょう。

 日本では、1941年、軍国主義化していく政府の路線にほぼ沿う形で、政府の強い要請のもと宗教団体法に基づくキリスト教会の合同が行われました。その時誕生したのが「日本基督教団」です。教派や教理の違いを問わず、「日本にある教会」は日本基督教団に統合されたのでした。そのため在日コリアの在日朝鮮基督教会もまた宗教団体法のもと「日本基督教」に併合され、41年には「日本基督教”団”」に合同されることになったのです。終戦後しばらしてすぐに、強制的にまとめられた教派とともに、在日朝鮮基督教会は日本基督教団から離脱したのですが、48年に朝鮮半島の政治情勢から名前を「在日大韓基督教会」としたのでした。
多くの教派が日本基督教団から脱退し、戦後次々に新しい教団が生まれるのですが、当時世界的な運動となっていた「教会一致運動(エキュメニズム)」の要請をうけ、1948年日本でもゆるやかに”教派の壁を乗り越えて一致し連携していきましょう”という意味で、「日本キリスト教協議会(NCC)」が誕生し、在日大韓基督教会もまた「日本にある日本の教会」として、1956年にNCCに加盟しました。またこのNCCを通して世界につながる世界教会協議会(WCC)のメンバーにも加わることになったのでした。

<疑問3 在日大韓基督教会のアイデンティティ>

在日大韓基督教会においてNCCの働きとその後の方向性に深くかかわった人物として、李仁夏(イ・インハ)牧師の名があげられます。現在、NCC総幹事である金性済(キム・ソンジェ)牧師は、かつて李仁夏牧師が赴任していた川崎教会の後任牧師です。

とくに、彼らの持つ韓国独自の神学は、韓国でも少数派となる進歩的「民衆神学」派に属します。「民衆神学」派についての解説は次回にしたいと思うのですが、この少数派は親北朝鮮のグループゆえに、現在の文在寅政権になる前まではKCIAの監視が厳しく、朴正煕政権(1961年-1979年)では韓国民主化運動を活発に展開し多くの逮捕者を出すなど、韓国国内では不自由を強いられていました。一方、韓国国内の多数派を形成する保守派は、日本に宣教師を派遣しても福音宣教(伝道)活動を中心としているため政治活動は基本的に行っておらず、いわゆる「反日的」といわれるような活動はほとんど見られません。この2つをまず区別せねば、要らぬ誤解が蔓延してしまいます。

李仁夏(イ・インハ)牧師は、在日大韓基督教会のNCC加盟について、自伝『歴史の狭間を生きる』(日本基督教団出版局、p.103.)で以下のような話を伝えています。

 先輩たちの証言を通してわかったことなのだが、最初は韓国のNCCに加盟を願い出たが、韓国の教会の指導者から、エキュメニズムには地理的な意味もあるのだからに日本のNCCに加盟する方が望ましい、と話をもどされてのことだったと聞く。

後にNCC議長になった李仁夏牧師(1982-85年)も、若き頃に日本に来て日本で学び日本の神学校を出ると、信徒数500名ほどのソウルの駅前にある城南ソンナム教会(韓国長老教会所属)に牧師として働くようにとの招きがあったそうです。そこへ赴任するために準備していたものの、長男が突然病気になり、子供への精神面の配慮で父親の単身赴任を医者から止められ、不本意ながら日本に留まり、川崎教会で牧会することになったとのことです。

どうやら、在日大韓基督教会や李仁夏元NCC議長の当時のアイデンティティは、韓国教会の方にあったようです。その在日大韓基督教会が「日本にある日本の教会」として受け入れられ、NCCの6役の内の2役(現在は、総主事、書記)は在日大韓基督教会に与えられ、さらには李仁夏牧師が日本キリスト教協議会(NCC)議長を務めたことをもっても、日本のNCCは在日大韓国基督教会の影響を強く受けているといっても過言ではないと考えます。
 また、NCCの中核的な団体であり日本最大の教団である日本基督教団と、在日大韓基督教会は1984年に「日本基督教団と在日大韓基督教会総会との協約 」を締結しており、協約には「3.日本基督教団と在日大韓基督教会は特に在日韓国・朝鮮人の人権問題への取り組みについての協力 を約する。 」となっています。
その一環としてなされている
2018年 日本基督教団・在日大韓基督教会 平和メッセージにおいては、①共謀罪について ②大嘗祭について ③憲法改正について ④ヘイトスピーチ根絶にむけて と祈りの課題を挙げています。

しかし、④の「ヘイトスピーチ根絶にむけて」は多くの人々の理解が得られるとしても、①の「共謀罪」、②の「大嘗祭」、そして③の「憲法改正」については、キリスト教界内においても賛否分かれるため、非常に問題があります。

<疑問4 謎の北朝鮮のキリスト教団体との連携>

 李仁夏牧師がNCCのトップである議長の役職を務めている間に、世界教会協議会(World Council of Churches:WCCにおいて、オカシナことが起こっています。

世界教会協議会(WCC)については、重要なので簡単に説明いたします。
第二次世界大戦後、世界のキリスト教の諸教派・団体が一つになり相互の連携および協力を目的として、アムステルダムに147のプロテスタント諸教団代表が集まり、世界規模のエキュメニカル組織がつくられました。それが、世界教会協議会World Council of Churches(以下WCCです。現在、スイスのジュネーヴを本拠地に110以上の国と地域の教会、宗派、そして教会が加盟し、350以上の教会と教派の会員が加盟しています。
この世界教会協議会(WCC)の、日本支社版として組織されたのが、「日本キリスト教協議会(NCC)」であり、現在全世界とつながり国連に影響力をもっています。

さて、李仁夏牧師がNCCのトップである議長の役職を務めたのが1982年ー85年ですが、当時WCCの会議において日本のNCCがホスト役になって、北朝鮮のキリスト教団体である朝鮮基督教連盟とコンタクトを取り始めました。そして85年には日米仏の教会協議会がそれそれ北朝鮮の教会へ訪問、さらに86年にはWCCの主催でスイスのグリオンでキリスト教の代表同士が初めての会合をもち、それ以降、韓国のNCCと朝鮮基督教連盟の連携は続き、政治的共同声明、2018 年には平和統一南北共同祈祷主日 祈祷文 まででています。

はたして、北朝鮮に「本物のキリスト教団体」が北朝鮮政府によって公認されるでしょうか?

そこで当サイトSALTY主筆の西岡力先生に、この奇怪なキリスト教団体について尋ねると、ご自身の論文<研究動向>アジア研究 : 北朝鮮の「キリスト者」に関するいくつかの資料 をご紹介くださいました。この論文と西岡先生から聞いたことを、私なりにまとめる次のようになります。

 北朝鮮には、政府によって公認されている宗教組織として、プロテスタント、カトリック、仏教、天道教土着宗教の4つがあります。「朝鮮基督教連盟」は、そのうちのプロテスタントを代表する組織です。しかし、その実態は、朝鮮労働党の工作機関である統一戦線部に属し、1970年以降、反体制運動に取り組み韓国のキリスト教界に対する工作を仕掛けることを任務としている疑いが、かなり強いということです。以下、論文にあるものをそのまま引用します。

 笑い話のようだが、朝鮮基督教徒連盟 中央委員会の委員長康永燮や朝鮮天道教会中央指導委員長柳美英ら宗教団体指導者たちは統戦部六課の課長や指導員たち の指示を受ける繰り人形だ。基督教徒連盟委員長の事務室のすぐ横に統戦部六課担当指導員の事務室があり、この担当指導員が命ずるままに行動し、指導員が廊下に現れれば最初にあいさつするのがまさに康永燮委員長だといえば事態を簡単に理解することができるだろう。( 『現代コリア』95年8・9月号所収、高英 煥「朝鮮労働党の対南工作機関」より)

 朝鮮基督教徒連盟と交流する際は、彼ら は韓国の現政権を転覆させようとしている革命工作機関の指導の下で活動している人たちなのだということをきちんと認識して いる必要がある。

北朝鮮の公式な「キリスト教団体」というのは実に疑わしいのですが、浅見雅一・安廷苑 著『韓国とキリスト教』(中公新書)になると、これ以上にかなり突っ込んだ分析と見解が述べられています。

 

 

 

 

 

 

 1970年代に入ると、金日成をはじめとする北朝鮮の指導者たちは、宗教人が皆いなくなったので宗教をも存在しない、と公言するに至った。1972年8月に平壌で開かれた南北赤十字会での康良煜(カンリャンウク)の発言によって、北朝鮮では表面上はキリスト教会がすでに消滅していることが公式に確認されたのである。ところが、1980年代に入ると、北朝鮮はそれまでとは一変して、公式に国内キリスト教の信者がいると発表している。

 朝鮮基督教(徒)連盟については以下のように伝えています。

 朝鮮基督教徒連盟とは、1946年に金日成の姻戚である牧師の康良煜(カンリャンウク)が金日成を支持するために作った組織である。この組織は金日成の指導の下、朝鮮労働党政権がキリスト教の組織を分裂させ、その影響力を掌握するために利用された。康良煜(カンリャンウク)は、北朝鮮の副主席になっている。彼こそが1972年の南北赤十字会大の席上で、北朝鮮におけるキリスト教会の消滅を述べた人物である。

そして、次のような分析結果を報告しています。

 北朝鮮は、1972年に南北対話が始まったことを機に、「疑似宗教団体」を復活させた。宗教の国際会議に疑似宗教団体の代表を出席させて、宗教を北朝鮮が国債社会に進出するための手段として用い始めた。あたかも北朝鮮には宗教の自由があるかのように見せかけ始めたのである。

 北朝鮮では、1972年の新憲法で初めて「反宗教宣伝の自由」(宗教を否定する自由)が掲げられたが、この時点では国内にすでに宗教は存在しなかった(澤正彦著『南北朝鮮基督教史論』を引用)

ここまで来ると、北朝鮮の公式「キリスト教団体」が本物である可能性がゼロに近いというという印象しか私には残りません。実態は如何なるものでしょうか・・・

次回、キリスト教界の反日的な傾向(3)へ続く
あらすじ
東京を拠点にした世界的クリスチャンネットワークの存在
前回 キリスト教界の反日的な傾向(1)~その原因を探